オウム真理教の元代表・松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の長男が、教団から派生した「アレフ」が、自分の氏名や写真が使用されているとして、その使用差し止めと4千万円の損害賠償などを求める訴訟を東京地裁に起こしたと報じられています。
氏名等の使用差止めを求める訴えはあまり見るものではないと感じますが、そもそもどのような法的根拠に基づくものでしょうか。そもそも「名前を勝手に使う」ということ自体は違法なのでしょうか?
訴状などを見ているわけではないので、想像になりますが検討してみようと思います。
■裁判をするためには法律の根拠が必要
何かしらの請求を裁判で主張するためには、法律及びその解釈から導かれた判例理論などに基づいていることが必要です。
「氏名や写真を使用するな」という請求も当然何かしらの根拠に基づいている必要があります。しかし、氏名や写真が使われているからその使用をしてはいけない、という趣旨の明文の法律はありません。
■差止めを求める根拠は人格権
そこで、報道を見てみると、アレフは長男の誕生日に関係する催しを長男に無断で開催し、その氏名を使用したほか、写真も今後様々な形で使われることが予想され、回復不能な損害を被るおそれがあるということが理由とされています。
つまり、長男が、アレフと関係がないのに関係があるように受け取られてしまい、今後の生活をする上で偏見を持って評価されてしまうということです。
このような場合、長男としては人格的生存が脅かされているといえます。憲法は人格的生存をすることを保障しており、その趣旨から人格権に基づく差止請求(妨害排除・妨害予防請求)が認められる場合があることが、判例上認められています。
したがって、この請求は人格権に基づく差止請求(妨害排除・妨害予防請求)であると想定されます。
■人格権とは
人格権というのはあまり耳慣れない言葉かもしれません。具体的にはいろいろなものが含まれますが、代表的なものは名誉権やプライバシー権です。
アレフと関係がないという長男からすれば、関係があるかのようにされることは、その名誉権を侵害されるということになるでしょう。この訴訟では、アレフが実際にどのような団体であるのか、長男が本当に関係がないのかといったことが論点になっていくと思われます。
今後どのような展開になるのか注目したいと思います。
なお、実は、私がしばしば行っているインターネット上の記事の削除請求も、この人格権に基づく差止請求(妨害排除・妨害予防請求)が根拠になっています。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)