通信や通話の盗み聞きが許される「通信傍受法」って何?

盗聴

■通信傍受法とは

2000年8月に「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」(以下、「通信傍受法」といいます。)が施行されました。

通信傍受法は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害していることにかんがみ、下記の4類型の罪について、通信の傍受が認められるための一定の要件・手続等を定めています(通信傍受法1条参照)。

通信傍受の対象は、

・薬物関連犯罪

・銃器関連犯罪

・集団密航に関する罪

・組織的な殺人の罪

の4種類とされています。

もっとも、実際にはあくまで「4類型」の罪であり、犯罪の種類、数ともに極めて広範であります。具体的には、覚せい剤や大麻の単純な所持も通信傍受の対象犯罪に含まれており、例えば、2人で金を出し合い覚せい剤を買ったというごくありふれた事案も、傍受の対象となりうるのです。

 

■通信傍受法の問題点

通信傍受法は憲法35条に違反して許されないのではないかと議論されることがあります。

憲法35条1項には、「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合(現行犯逮捕の規定)を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない」と規定されています。

通信傍受法案について、法務省の提案の理論的支柱とされた井上正仁教授の見解は、盗聴についても憲法35条により特定性が必要としながら、そもそも押収物の表示の特定は抽象的、概括的なものとならざるをえないとし、まだ存在もしていない会話の盗聴について、裁判官から見たとき既に発生した事件の存否の判断も将来発生するかもしれない事件についての予測も「蓋然性判断」としては共通であるとし、「本件犯行に関係する通信ないし会話」という表示でも特定性は満たされているとしています。

しかし、通信傍受法反対論者からは、このような見解は捜査の便宜の前に令状主義による押収対象の特定の要請を事実否定したものであり、憲法35条を有名無実化するものであると批判されています。

反対論者は、盗聴捜査に対して本質的な危惧を持つ理由は、盗聴が個人の内心の秘密に著しい侵害性を持つにもかかわらず、すでに存在している犯罪の証拠物件を対象とするのではなく、これから話される個人の会話を対象とするため、強制処分の範囲が全く特定されないという特質を持っているからであるとしています。

 

■否定も多いが効果は出ている

以上のように、通信傍受法については賛否両論があり、相当な数の反対論者がいることも事実です。

2014年10月、特定危険指定暴力団「工藤会」の最高幹部を含む計15人が、看護師の女性を殺害しようとしたとして、組織的な殺人未遂容疑で逮捕・勾留され起訴されました。この事件で、逮捕の決め手となったのは通信傍受でした。

このように、通信傍受法が制定されたおかげで立証が難しい事件の解決につながるという面も否定できません。

ただ、通信傍受法は、批判が多い法律ですので、犯罪と何ら関係のない個人の内心の秘密を侵害しないよう、その適用には慎重でなければならないのかもしれません。

 

*著者:弁護士 鈴木翔太(弁護士法人 鈴木総合法律事務所)

鈴木 翔太 すずきしょうた

弁護士法人 鈴木総合法律事務所

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