警視庁公安部は「イスラム国」に加わるため海外渡航を企てたとして、6日刑法の私戦予備・陰謀の容疑で北大生の20代の男ら複数の日本人から任意で事情を聴くとともに東京都内の関係先数カ所を家宅捜索しました。
イスラム国に参加しようとした日本人の存在が明らかになるのは初めてとのことですが、報道によると警視庁が私戦予備・陰謀容疑で強制捜査するのも初めてのことです。
「海外渡航を企てた」という理由で強制捜査というと不思議な話ですが、今回は海外で行おうとしていた行為に問題がありました。その行為が私戦予備・陰謀という法に触れる恐れがあったというわけです。では、私戦予備・陰謀という物騒な犯罪名はどのような罪なのでしょうか。
■私戦予備・陰謀罪の要件
私戦予備・陰謀の罪(刑法93条)は(1)外国に対し(2)私的に(3)戦闘行為をする目的で(4)その予備又は陰謀をした者を処罰しています。
非常にマイナーな条文で実務ではまず見ることがなく司法試験でも(おそらく)問われたことはないような犯罪です。
(1)外国とは国家権力の担い手としての外国を指します。イスラム国はシリアやイラク政府に対して戦闘していますのでイスラム国に加わることで「シリアやイラク国家に対し」という要件を満たすと判断されたのでしょう。
(2)「私的に」とは日本国の国家意思によらないことを意味しますので要件を満たします。
(3)「戦闘行為」とは単なる暴行行為では足りず組織的な武力による攻撃防御が必要と考えられていますがイスラム国による組織的な武力行為があるのでこの要件も満たします。
(4)「予備」とは戦闘行為の実現を目的として行われる準備行為「陰謀」とは戦闘行為の実行について相談し合意することを意味します。
■私選予備・陰謀罪の不思議
通常殺人予備罪などのように予備罪では予備の後の「本罪(殺人)」も犯罪として処罰されます。
ところが私選予備・陰謀罪は準備行為(予備行為)をした後の外国に対する私的戦闘行為自体は犯罪として独自に規定されていません。
外国に対する私的戦闘行為自体の処罰は改正刑法草案で議論されたこともありましたら現行刑法では私的戦闘行為自体の犯罪が規定されていません。
そういう意味でも刑法93条の私選予備・陰謀罪は大変珍しい犯罪です。
なお私的戦闘行為自体は別途殺人罪や放火罪の国外犯として処罰されることになります。
■法定刑
私選予備・陰謀の法定刑は3月以上5年以下の懲役とされています。
国際状況によっては日本国全体がテロなどの報復の対象となりかねない危険な行為であることは間違いないといえるでしょう。
途中で私的戦闘行為を中止する動機付けとなるよう捜査機関に発覚する前に自首した場合は必ず刑が免除されることも私選予備の特徴です(刑法93条但書き)。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)