HEROで放送された「実行犯が分からないから全員同罪」は本当にある?

9月8日放送のドラマHEROの中で、キムタクをはじめとする検事が、実行犯を隠そうとする共犯者の学生4人に対し、「全員同罪にする」と迫るシーンがありました。

複数人で被害者に暴行を加え、結果死亡させたものの、直接の死因となった暴行を加えた人物が特定できない場合、全員同罪として全員を傷害致死罪で処罰できるのでしょうか?

裁判所

■HEROの振り返り

ドラマを見てない方向けに、補足して説明すると、学生4人が公衆トイレで被害者に対し共同で暴行を加え死亡させたという事件でした。

直接死因となる暴行を加えた実行犯に関する学生4人の供述は、以下のとおりでした。

学生A「Bが実行犯」

学生B「Cが実行犯」

学生C「Dが実行犯」

学生D「Aが実行犯」

暴行現場の目撃者はおらず、死因となる暴行を加えた犯人が特定できない事態となりました。

そこで、キムタクの所属する城西支部の検事は、被疑者の学生たちに向かって「全員同罪にする」と告げました。

そしてドラマでは、学生とは別の振り込め詐欺のリーダー「椎名」なる人物が実行犯であったというところで終わります。

 

■共謀がある場合

ドラマの設定では、学生4人に少なくとも暴行を加えるという共謀はあったようです。

この場合、学生らにはまず暴行罪の共同正犯が成立します。

共同正犯が成立する場合、共犯者はそれぞれ、「一部実行全部責任」を負い、他の共犯者による暴行の結果についても原則として責任を負います。

傷害致死罪は、殺意なく暴行を加えた結果、他人が負傷するだけでなく、死にまで至ってしまったときに成立する犯罪です。

共同正犯による傷害致死罪は、基本犯となる暴行罪について共謀・共同していれば、共犯者の誰が致命傷を与える暴行を加えても、全員が暴行の結果生じた傷害罪・死亡結果の責任を負います。

つまり、学生4人は基本犯の暴行罪について共謀・共同があるので、全員に傷害致死罪が成立します。

 

■椎名の責任

ドラマでは終盤で、真の主犯格の椎名が実行犯であることが判明します。

この場合、学生4人の罪は軽くなるかというと、実はそう単純ではありません。

椎名も殺意まではなかったとすれば、椎名も学生らと同じ暴行の共同正犯の1人となります。

つまり、暴行の共犯者が学生4人から主犯格椎名を加えた5人になるにすぎず、基本犯となる暴行を共謀した全員に傷害致死罪が成立することに変わりはありません。

もっとも、実際の裁判では、同じ罪名・同じ法定刑でも従属的だった学生4人よりも主犯格椎名の処断刑が重くなると予想されます。

 

■学生4人が致死の責任を負わないケース

学生4人が共同して暴行を加えたが、誰も致命傷を与えておらず、椎名が殺意をもって殺している場合は、椎名だけが単独で殺人罪となり、学生4人は傷害罪にとどまるでしょう。

また、椎名が致命傷を与える前に、学生らが翻意して椎名の暴行を止め被害者を助ける行動に出るなど、死亡結果防止措置を最大限尽くしている場合には、学生らに共謀関係からの離脱が認められ、死亡結果(傷害致死罪)までは責任を負わず、傷害罪にとどまることもあります。

 

■暴行の共謀すらなかった場合

共謀なく学生らが同じ機会に暴行を加え、誰の暴行が原因で死亡したか特定できない場合であっても、同時傷害の特例(刑法207条)の規定により、全員が傷害致死の責任を負います。

ドラマでは「全員同罪」の詳しい説明はありませんでしたが、上記のとおり、刑法理論的には面白い論点がいろいろ潜んでいます。

今回取り上げたテーマも、法学部の刑法の授業や司法試験でよく取り上げられる論点です。

 

*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)

星野宏明
星野 宏明 ほしのひろあき

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