京大医学部の入試で面接の成績が0点だったという事実がインターネット上で話題となっています。
面接で0点というのはそれこそ面接の際に暴言を吐いただとか、そもそも面接に無断欠席したなどの例外的な場合にすぎないと思うのですが、今回は0点がつけられたそうです。
「面接0点」の成績通知書を晒した人は、大学院を卒業したのちに受験をしており、浪人もしているため、他の受験生に比べて高齢であり、無理やり不合格にするため面接の成績を0点にしたのではないかという予想がされています。
このように、年齢を理由に不合格となったのではないかと思われる場合、不合格の取消しなどを裁判所に訴えることができるのでしょうか。じつは、10年ほど前にも同様な事件があり、実際に裁判になっています。
●50代女性が年齢差別されたと提訴したことも
その方は50代の女性の方で、平成17年に国立大学の医学部を受験したところ、学力試験の成績では合格点に達していたものの、本件同様面接の成績が極端に悪く不合格となりました。そこで、その女性が、不合格決定は年齢による差別に基づくものだとして、不合格決定の取消しを求めて提訴しました。
結果は女性の敗訴となったのですが、判決理由では、大学が合格者を決める際の基準は基本的には大学側の裁量にゆだねられているが、ただ、合否の判断が合理的な理由でなく、年齢、性別、社会的身分等によって差別が行われたことが明白である場合には、合否の妥当性を裁判所で判断しうる、と判示し、ただ、本件では年齢によって不合格とされたことが明白ではないため、大学の不合格という判断は違法ではないとして女性の訴えを退けました。
この判決からすると、年齢を理由とした差別は違法であるとはっきり示しており、京大医学部の件でも年齢によって不合格にされたことをしっかりと証明できれば不合格が取り消されるものと思われ、一見するとこの判決は受験生側に有利なものであるように思えます。
●年齢差別の証明は困難
しかしながら、受験生側が年齢を理由に不合格になったことを証明するということは事実上相当困難でしょう。判断権者は全て大学側の人間であり、受験生側には一切資料はありません。とすると、先の判決は不合格取消の余地があるように判示しているものの、事実上訴訟で不合格取消が認められる可能性は極めて低く、受験生にとって不利な判決であると思われます。
平均寿命が80歳を超える現代の日本においては、60代、70代でも十分稼働可能な年齢であると思います。とすると、医学部であるという特殊性を考えたとしても、高齢であるという理由のみで不合格とすることは許されないのではないでしょうか。
●打開策はあるか
そして、そのことは受験生側が「年齢によって不合格にした」ということを証明するのではなく、逆に大学側が「年齢以外の要因で不合格にした」ということを証明しない限り、不合格は違法であるという仕組みに変えていかない限り、この手の問題は永遠に解決しないでしょう。
現時点では裁判所の判断は変わらないと思われますが、将来的に判断が変わり、年齢による不合理な差別がなくなることを切望いたします。
*著者:弁護士 山口政貴(神楽坂中央法律事務所。サラリーマン経験後、弁護士に。借金問題や消費者被害等、社会的弱者や消費者側の事件のエキスパート。)
*画像はWikimedia:Mojaより引用