自殺に関与した周囲の人間が罰せられる理由

日本では、1990年代後半から自殺者が増え続け、ここ数年は3万人を割ってはいるものの、大幅に減少していることはありません。

自殺した人自体を罰することは当然できませんが、では、人を自殺に追い込んだり、あるいは自殺を手伝ったりした場合に、罪に問われることはあるのでしょうか。今回はこの点についてお話しします。

孤独

■自殺関与を処罰する法律上の根拠

自殺に対する関与については、刑法202条に処罰する条文が定められています。これによれば、「人を教唆しもしくは幇助して自殺させ」た者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処するとされています。

「人を教唆し」とは、他人に自殺するようけしかける、促すという意味です。

例えば、「自殺しないとお前の親兄弟を殺す」などと脅して、他人を自殺させた場合には「自殺教唆」ではなく、殺人罪(刑法199条)として処罰される可能性があります。自殺教唆罪に該当するといえるためには、自殺をけしかけた結果、他人が自分の自由な意思によって自殺することを決める必要があります。

一方、「人を幇助して」とは、自殺を決意した人に対して、道具や自殺方法の知識などを提供することです。

「死にたい。殺してほしい」「殺してくれて構わない」と言っている人に対して、例えば首を絞めたり、刃物で刺すなどして死なせた場合には、自殺幇助罪ではなく、202条の後段に規定されている嘱託殺人罪や同意殺人罪が適用されることとなります(但し、殺人の依頼や承諾が真摯な意思に基づくものでない場合には、通常の殺人罪となります)。

 

■自殺教唆や自殺幇助はなぜ処罰されるのか。

この点については、2つの考え方があります。

1つめは、自殺自体がそもそも違法であり、教唆や幇助は、違法な自殺行為の共犯であるという考え方です。

もう1つの考え方は、自分の命をどうするかはその人自身の意思に委ねられる問題であり、自殺自体は違法ではない。しかし、自分の命をどうするか決めることができるのは本人だけであり、他人がそれに影響を及ぼしたりすることは、生命に対する違法な侵害になるという考え方です。この考え方によれば、自殺教唆罪や自殺幇助罪の処罰規定は、共犯ではなく、「他人の生命に対する違法な侵害」を独自に処罰するものと考えることとなります。

自殺する以外に解決する方法がないということはまずありません。また、自殺したいと思い悩んでいる人の多くは、精神的に大きなダメージを受け、私生活で大きな問題を抱えているケースが多いものです。

周囲の人間がすべきことは、安易にその人の死に手を貸すことではなく、死の結果を招かないで済むように、しかるべき対処ができる窓口にその人を導くことであると考えます。
*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)

寺林 智栄 てらばやしともえ

ともえ法律事務所

東京都中央区日本橋箱崎町32-3 秀和日本橋箱崎レジデンス709

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