DNA鑑定で血縁がないことが判明した場合、父子関係は取り消せるのかを争った「父子関係訴訟」の判決が本日17日に下されます。
訴訟の背景は、子は母が戸籍上の父と婚姻中に生まれたが、その後、母が子の戸籍上の父と離婚し、生物学上の父と再婚して暮らすようになったので、生物学的な血縁関係がなく生活実体も乏しい戸籍上の父と子の親子関係の不存在を確定しようとしたものです。
ところが、民法では、生物学的な血縁関係にかかわらず、夫婦の婚姻中に生まれた子は、夫の子と推定するという規定(嫡出推定規定)を設けているために、婚姻中に生まれたというだけで、法律上の父は、母親の前夫のままとなるのです。
最高裁では2件の訴訟に判断を示すようですが、2件とも、母親が子を代理して、戸籍上の父を被告として、子と戸籍上の父の間の父子関係がないことの確認を求めています。
■嫡出推定は簡単に覆せない
嫡出推定の規定は、夫婦の間には通常肉体関係があり、かつ、貞操義務を負っているから、婚姻中に生まれた子は夫の子である蓋然性が高いことを根拠としています。
嫡出推定の効果として、父と子の嫡出親子関係は、子の出生を知ったときから1年以内に、「夫からのみ」嫡出否認訴訟を提起できることになっています。
他方、嫡出推定規定が適用されない子(婚姻前の子など)には、嫡出推定の効果はなく、利害関係のある者なら基本的には誰でも父子関係否認訴訟を提起できます。
本件では、いずれも戸籍上の父が子との嫡出関係訴訟を否定しなかったので、母親が子を代理して、「嫡出推定規定が及ばない」こと、すなわち、嫡出推定の前記効果がないことを前提として、父子関係の否定をしようとしたわけです。
■嫡出推定が適用されない場合
典型的には、婚姻前の子などですが、これまで判例は、嫡出推定規定の根拠から、夫が戦争で出征中だったとか、服役中だった場合には、夫婦間で肉体関係をもつことが不可能であり、嫡出推定の根拠が妥当せず、婚姻中に生まれた子であっても嫡出推定規定は適用されないと判断していました。
今回の訴訟の原告(母親側)は、これをさらに推し進めて、DNA鑑定で父子関係が否定された場合には、客観的に父子関係がないことは明らかなのだから、嫡出推定規定の適用を排除すべきだ、という主張です。
これまでの判例は、出征や服役で外観上、肉体関係を持てなかった場合にのみ嫡出推定規定の除外を認める見解でしたが、学説上は、今回の訴訟の原告主張のように、DNA鑑定を根拠に嫡出推定規定の除外を認めるべきだという考えも存在します。
■まとめ
下級審では、原告の主張を採用したようですが、最高裁では、下級審の判断が破棄される可能性もあります。
一見すると原告の主張が合理的にも思えますが、結局事後的にDNA型鑑定をしてみて、いつでも嫡出父子関係を覆せるとすると、子の身分関係が安定せず、不安な父親は生まれてすぐにDNA鑑定をする人も増え、現行法が嫡出推定規定によって親子関係の安定を図った嫡出推定規定の趣旨が没却され、その存在意義を失うことになります。
最高裁が下級審の判断を破棄するとすれば、そのあたりが理由となるのではないでしょうか。
皆さんはどう思いますか?
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)