戸籍法では、親は、子の出生後14日以内に、出生届を提出しなければならないと定められています(戸籍法49条、52条)。
しかしながら、様々な理由からこの届出をしない親がいます。出生届をしないと、生まれてきた子は、戸籍を持つことができません。
日本では、行政上の様々な手続をするにあたって、戸籍が基準とされていますので、戸籍がないとできないことがたくさんあります。今回はそれらの中からいくつかのケースを紹介します。
まず、戸籍がないと、結婚をすることはできません。
法律上、婚姻が成立するためには、(1)結婚をする男女間で婚姻の意思があること、(2)有効な婚姻届をすることが必要です。
(2)の有効な婚姻届をするためには、婚姻届とともに戸籍謄本を提出する必要があります(なお、本籍地において婚姻届をする場合には、戸籍謄本は不要です。)
しかしながら、戸籍がないと、戸籍謄本を提出することができず、有効な婚姻届の提出(2)という要件を満たすことができないために、結婚をすることができないということです。
次に、自動車運転免許証やパスポート(旅券)を取得することができません。
免許証を取得する場合には本籍地が記載された住民票を提出する必要があります。また、パスポートを取得するためにも戸籍謄本を提出する必要があります。
しかしながら、戸籍がない人は、本籍地が存在しないため、住民票や戸籍謄本を提出することができないため、免許証やパスポートを取得することができません。
また、国民年金や国民健康保険などの社会保険に加入することもできません。
戸籍がない人は、国民年金を受給することもできず、医療費についても全額を負担しなければならないことになります。
さらに、戸籍がない人には選挙権や被選挙権も認められていません。
国会議員や地方議員の選挙権や被選挙権は、一定の年齢に達した日本国民であれば、基本的に誰にでも認められています。
しかしながら、日本国民であることやその人の年齢というのは、戸籍があって初めて公に証明することができます。
そのため、戸籍がないと日本国民であることやその人の年齢が分からないため、戸籍がない人には選挙権や被選挙権が認められていないということです。
戸籍がないと公立学校に通うこともできません。
戸籍をもとに、義務教育対象年齢かどうかを確認するためです。
以上のとおり、戸籍がないと様々な不都合や不利益が生じますが、戸籍がない人でも、戸籍を新たに作ることができます。
戸籍を作れば、上記のような不都合や不利益を解消することができます。
戸籍を作るためには、家庭裁判所の許可を得て、就籍手続(戸籍法110条)をする必要があります。
具体的には、就籍を希望する住所地を管轄する家庭裁判所に対して、就籍許可の申立書、住民票、日本国民であることを証する資料、身分事項を証する資料(出生証明書、母子健康手帳等)を提出し、許可が下りた日から10日以内に、就籍を希望する市区町村に就籍届を提出することになります。
*著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)