他人の名刺をネット上にアップし、その名刺に記載された社員を騙り、「退職したけど質問ある?」というスレッドを立てた上、その会社について書くなどの行為が話題となっています。
実際にはその社員は退職しておらず、なりすましであったことが分かっています。このような行為に法的問題があるのか、検討してみたいと思います。
●なりすましを直接規制する法律はない
昨今では、Twitterのなりすましが行われるなど、なりすまし行為はいろいろなところで問題になっています。しかし、なりすましを直接禁止する法律はありません。
したがって、なりすましをしただけでは犯罪になることはありません。
●プライバシー侵害の可能性が高い
しかし、特に今回の件は、他人の名刺をアップしているようです。
ある人物がどのような会社に勤めているのかということも、プライバシーとして保護される余地がある情報です。
したがって、プライバシー侵害が成立することになると思います。
またそもそも、なりすましは、言葉通り、他人になりすましているわけで、その書込み等をしているのが「自分である」と誤解されるきっかけとなります。
このような状況は、自分の私生活上の事実らしく受け取られることになりますし、自分に関する誤った情報が流れていく可能性があります。つまり、プライバシー侵害となる可能性が高いです。
そのため、今回の行為はプライバシー侵害となると思われます。
プライバシー侵害は犯罪ではありませんが、民事上不法行為となり、削除を求めることができたり、損害賠償を請求することができます。
●書き込む内容次第では犯罪にもなり得る
さらに、なりすましそれ自体は犯罪にならないものの、なりすました上で書き込んだ内容が、その人の人格を疑わせるような内容であった場合には、名誉毀損などの問題を生じさせます。
何をもって名誉毀損というかはケースバイケースではありますが、勤務先のことを悪く言う人物であるとして、「そのようなことを言う人物である」と誤解させる点で、名誉を毀損していると見る余地があります。
これを警察が事件として扱うかというと、可能性は低いと言わざるを得ないとは思いますが、犯罪として成立しないというわけではありません。
なりすましをすることの何が楽しいのか分かりませんが、なりすましは民事上の問題だけではなく、刑事上の問題も生じさせる可能性があるものですので、やるのは賢明とはいえないでしょう。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)