「食い逃げが無罪」と聞くと、思わず耳を疑ってしまうかもしれませんが、実は法律上では食い逃げをしても犯罪にならないケースが存在します。
そもそも食い逃げをしたときに問題となるのは詐欺罪(刑法246条)ですが、詐欺罪が成立するためには
(1)詐欺行為(だますこと)
(2)錯誤(だまされること)
(3)処分行為(だまされたことによって金品を交付すること)
という3つの条件をクリアしなければなりません(詳細:詐欺罪とは)。
では食い逃げの場合はどうでしょうか。
■払う意志がなく料理を注文した場合
まず、最初からお金を払う意思がないにもかかわらずお金を支払うかのようにふるまって料理を注文した場合ですが、このケースは100%詐欺罪が成立します。
お金を支払う意思がないのに支払う意思があるようにふるまって注文することは、店員をだます行為になりますので(1)詐欺行為にあたります。そして店員はだまされているので(2)錯誤が存在し、注文に応じて料理を出してしまっているので(3)処分行為も存在します。このケースが完全に詐欺罪にあたることは間違いありません。
そして、ここからが難しい問題です。
■途中で財布が無い事に気づいた場合
最初は普通にお金を払う意思があって料理を注文したが、食べている途中で財布を忘れたことに気づき、お金を払わないで逃げてやろうと思った場合です。
まず、注文した時点ではだます意思はありませんから、仮にお金を持っていなかったとしても詐欺罪は成立しません。
次に途中でお金を払わずに逃げてやろうと思った時点ですが、この時に店員に「ちょっと忘れ物を取ってくる」「車の中に財布を忘れたんで取ってくる」などと嘘のことを言って店を出て逃げてしまった場合は詐欺罪が成立します。
嘘を言って店員をだまし、代金の支払いを免れるという「利得」を得ているからです。
ところが、例えば店員のいない隙に逃げたり、裏口から出たりして、店員をだますことなく逃げた場合は詐欺罪は成立しません。
お分かりかと思いますが、店員をだましておらず、(1)詐欺行為がないからです。物を盗んだわけでもありませんので窃盗罪にもなりません。ですので、このケースでは無罪となります。
■注意するべき点
くれぐれも注意しておきますが、無罪となるのはあくまでも「料理が出された後に」お金を払わずに逃げてやろうという考えが生じたときに限られます。
「注文する前から」お金を払わずに逃げてやろうと考えていた場合には、店員をだまさずに裏口から逃げたとしても詐欺罪が成立することに争いはありません。
「食い逃げは裏口から逃げれば無罪」などと間違って理解しないようにして下さい。
もっとも、仮に無罪になったからといって、料金を支払わなくていいということにはなりません。詐欺罪であろうとなかろうと、食べた料理の代金をお店に支払う義務は免れません。
ですので、当たり前のことですが、店員がいようといまいと食べた料理の代金はきっちり払うべきであり、仮に財布を忘れてしまったような場合には、「裏口から逃げれば…」などというような変な気を起こさず、店員に正直に申告しましょう。
*著者:弁護士 山口政貴(神楽坂中央法律事務所。サラリーマン経験後、弁護士に。借金問題や消費者被害等、社会的弱者や消費者側の事件のエキスパート。)