日本音楽著作権協会(JASRAC)が、その管理する楽曲をピアノで生演奏していたキャバクラを訴えていた件で、6月26日、生演奏差止と著作権侵害による損害賠償として1,570万円を支払うことを命じる判決が東京地裁で下されました。
今回は、この事件をもとに、著作権とは何か、生演奏が著作権違反と判断されたのはなぜか、判決の影響などについて考えてみたいと思います。
■著作権や著作物について
著作権とは、いわゆる知的財産権に属するもので、「思想又は感情を創作的に表現した著作物を排他的に支配する財産的な権利」を指します。日本は、著作権を著作権法という法律で保護しています。
著作権法によって保護を受ける「著作物」の中には、当然、音楽も含まれています。
この著作権という権利は、たくさんの権利に枝分かれしています。例えば、複製権、上映権、上演権などを挙げることができます。今回問題となったのは、著作権のなかでも上演権となります。
■日本音楽著作権協会(JASRAC)について
今回、キャバクラを提訴した日本音楽著作権協会(JASRAC)とは、著作権等管理事業法を根拠に設立された社団法人であり、音楽著作権の集中管理事業を行っている組織です。
その業務の中には、著作権侵害の監視が含まれており、場合によっては、著作権侵害に対する刑事告訴や民事訴訟の提起(損害賠償請求や使用差止請求)を行うことがあります。
今回のキャバクラ店の提訴は、この著作権侵害の監視業務の一環として行われたものです。
■生演奏の禁止と著作権侵害
著作権法22条は、上演権を著作者の「専有」としており、同法38条は、公表済みの著作物を著作者以外の者が演奏することは
(1)営利を目的とせず、かつ聴衆・観衆から上演に対する対価を受けない場合
あるいは
(2)営利を目的とする場合でも、著作権者に対して対価が支払われる場合
についてのみ認められると定めています。
今回のケースでは、著作権者に対価が支払われていなかったと思われ、そのため(2)ではなく(1)に該当するかどうかが争点となったものと考えられます。
報道によると、判決では「演奏で雰囲気づくりをした店を好む客を集め、利益を増やす狙いだった」と認定したとのことですので、(1)に該当しないと判断され、裁判所は、差止や損害賠償の支払いを命じたものと考えられます。
■今後の影響について
キャバクラやバーなどでは、今まで、プロの作曲家による楽曲の生演奏が常態化していたといえます。そして、著作者に対して対価を支払っていない場合がほとんどでしょう。
判決の全文を読んでいるわけではないので、あくまで報道を見た限りでの感想ですが、今回の判決は、雰囲気づくりが集客にとって重要な飲食店の経営の在り方に、今後非常に大きな影響を及ぼす可能性が高いと考えます。
「都会の夜の大人の文化」が衰退するという意見も出てくることでしょう。
また、アマチュアミュージシャンが、プロミュージシャンによる楽曲をコピーして演奏する場合、やはり著作者に対価を支払っていることはほとんどありませんし、ライブでは入場料を得ることから、形式的には(1)に該当するともいえます。
今回の判決が、このようなケースにも適用可能な論理を取っているのだとしたら、日本の音楽文化そのものの衰退を招くのではないかと懸念されます。
*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)