マンションの部屋で、知人女性に暴行を加えて死亡させたとして女ら4人が逮捕された事件が報じられています。
この事件で衝撃的だったのは、女らが、暴行する様子をスマートフォンで撮影し、インターネットで生中継していたという点です。
このような暴行、ひいては殺人事件をネットで生中継することに、なにか違法性はないのでしょうか。
■死者に権利は保障されない
冷たい言い方のように感じるかもしれませんが、死者には、原則的には権利が保障されません。権利の享有主体は、あくまで生きている人であるとされているからです。
そのため、この件のようにすでに被害者が死亡している場合、その被害者の権利が侵害されたとすることは、原則としてできません。
■死者の名誉も保護され得るが…
しかし、あまり知られていませんが、死者に対する名誉棄損という犯罪があります。
暴行を受けている動画など公開されたくないというのが通常の感覚だと思われるので、この件でも死者に対する名誉棄損罪が成立しそうな気がしますが、どうでしょうか。
この罪が成立するためには、「虚偽の事実を摘示することによってした場合」であることが必要とされます。つまり、本当のことが公開されたに過ぎない場合には、罪が成立しないことになります。
この件は、女性が暴行を受けて死亡しているということは本当のことです。そのため、死者に対する名誉毀損は成立しないという結論になります。
■生中継という行為を問題にし得る
となると、罪に問えないのでしょうか。
この件の特殊性は、インターネットで生中継されていたという点です。ということは、生中継中は被害者は生きていたということになります。
罪になるかどうかは「行為時」が問題とされます。したがって、生中継中に被害者に対する名誉棄損が成立することになります。
ただ、名誉棄損罪は、告訴がないと起訴することができない「親告罪」であるとされます。被害者死亡後は、告訴権者は「その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹」となります。
したがって、これらの者が告訴をすれば、名誉棄損罪を問うていくことができる可能性があります。
■民事的な責任を加重できる可能性もある
さらに、このような行為は遺族の感情を逆なでする行為であるとはいえます。
民法は、被害者の父母や、配偶者、子については、固有の慰謝料請求権を認めています。そのため、加害者に対して慰謝料の請求をしていくことができるわけですが、この際に悪質な行為があったとして、慰謝料増額の一つの理由にしえるのではないかと思います。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)