TM NETWORKの木根尚登がテレビ番組で代表曲「Get Wild」のギターは演奏していなかったと暴露しました。
楽器の「当て振り」や「口パク」は度々話題になりますが、ファンやテレビなどの閲覧者を騙しているともとれます。そして、嘘をついてライブの集客やCDを売り上げるなどをし、利益をあげていたとも捉えられます。
弾いているフリをして弾いていなかったギターや、歌っているフリをして歌っていなかったボーカルに法律上問題はあるのでしょうか?
TMN以外でも、アイドルやアーティストの中には、口パクや演奏吹き替え(当て振り)の噂が絶えないグループが複数あります。
そこで、エアを売りにしているゴールデンボンバーは別として、口パクや当て振りに法的な問題がないのか、考えてみたいと思います。
■原則は問題なし
問題となるのは、いわゆる「詐欺」が成立して、損害賠償などの問題が発生するかです。原則として、そのような法的問題は生じないと考えられます。
テレビでのパフォーマンスが、本人の生放送時あるいは収録時の生歌・生演奏であるなどと告知されていることは、ほとんどの場合ありません。これは、演出の都合等により、口パクや当て振りが必要なことも、ままあるためと思われます。
これは、ライブの場合も同様と考えられます。
テレビ局やライブの興行主は、殊更に生歌・生演奏であることを売りにして、収益を上げているわけではありません。したがって、聴衆やテレビの前の視聴者を欺いているとまでは、法的にいえないのです。
■詐欺になりうる場合
これに対して、テレビ局やライブの興行主が殊更に「本人の生歌」であること、そのバンドの「生演奏であること」を売りにしていた場合には、法的な問題が生じる可能性があります。
特にライブの場合には、チケット代の返還と慰謝料支払いの責任が生じることとなるでしょう。
しかし、テレビの歌番組での口パク・当て振りの場合には、それで、視聴者にどのような損害が出たといえるのか、判然としません。
仮に、テレビでのパフォーマンスを見て、そのアイドルやバンドを好きになり、CDを購入した場合、その購入代金を返還しろとまでいえるのかというと、かなり困難ではないかと思われます。因果関係を証明できないと考えられるからです。
ファンにとっては悲しいことかもしれませんが、今の音楽業界、多少の口パク・当て振りは、演出上の問題と割り切って、歌番組やライブを楽しむことが必要でしょう。
*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)