ペットの犬が近くにいた子どもを襲っている最中、突然現れた猫が犬に突進して子どもを助けたというニュースが話題になっていました。
今回は子どもに大きなケガは無かったとの事ですが、ペットの犬が他人を襲ってケガなどをさせてしまった場合飼い主の責任はどこまで問われるのでしょうか。
■「犬がしたことだから」という言い分は通らない
民法には次のような条文があります。
第七百十八条 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
誰が「占有者」や「管理者」といえるのかについては、いくつかの考え方がありますが、飼い犬に因る危険を防止すべき者であり防止できる者と理解しておくとよいでしょう。飼主は占有者といえるでしょう。ペットのしたことの責任は、飼主が負うのです。
■相当の注意って何をすればいいの?
飼主は、「相当の注意」をしていれば責任を負いません。
ここでいう相当の注意とは、「通常払うべき程度の注意義務を意味し、異常な事態に対処しうべき程度の注意義務まで課したものでない」(最高裁昭和37年2月1日第一小法廷判決)とされています。しかし、一方では、「(飼い犬は)一般に家人に対しては温順であるが、未知の人に対しては必らずしもそうでなく、また音響その他外界の刺戟により容易に昂奮する性癖を有する動物である」(東京高等裁判所昭和34年7月15日判決。上記最高裁判決は同高裁判決を是認して上告を棄却。)という前提で判断されることもあるため、かなり厳しい注意が求められます。
「うちの子はいつもは優しいのに・・・。」というだけでは責任を回避するには不十分といえます。
裁判例においても、物理的な施設内で管理していたのに被害者が不用意に近づいたといった場合でなければ、「相当の注意」をしたとはなかなか認められていません。
■被害者側の落ち度も考慮される
飼主の責任が認められる場合、賠償すべき範囲は、被害者に生じた損害の全てです。例えば、被害者に後遺障害が残った場合にはその賠償も含まれます。
ただし、犬が人を襲った原因が、被害者にあるような場合など、被害者に落ち度があるときは、賠償額が減額されます(民法722条2項)。たとえば、威嚇している犬に不用意に近づいたりする場合や、あえて犬を怒らせた場合などです。
■保険で万が一に備えたい
このように、被害者側の落ち度も考慮されますが、飼い犬が他人にケガをさせた場合、原則として責任を負うと考えておいたほうが良いでしょう。
しかし、犬は動物ですから、飼主の意思にかかわりなく自由に行動しますし、常に飼主の指示に従うとは限りませんから、思いがけない事件が起きることは避けられません。犬種や襲った態様によっては、被害者が重大な傷害を負う可能性もあります。
飼い犬による事件については、適用可能な保険があります(個人賠償責任保険など)。飼い犬の行動を尊重すればこそ、保険に加入して万が一に備えてほしいと思います。他の保険とセットになっている場合もありますから、加入した覚えがなくても、一度加入済みの保険を確認してみてください。
*著者:弁護士 荻原邦夫(りのは綜合法律事務所。刑事事件を主に取り扱っています。お客様に落ち着いていただき、理解していただけるよう対応します。)