ネット上で嘘をついて人を騙す行為、いわゆる「釣り」ですが、良くも悪くもネット上のコミュニティを盛り上げる要素のひとつになっています。
あたかも本当の話のように作り話などを披露するため、真偽が分からない話も多々ありますが、投稿者が「釣りでした」と嘘を明かした際に「釣りかよ、ふざけんな」という意見の一方「釣りでも楽しい話だったら良い」という空気もあり、広く受け入れられている部分もあります。
しかし、嘘情報を意図的に書き込んで、多くの人の目に晒す行為は法律上問題ないのでしょうか?書き込みが有名ブログなどに取り上げられるなどした場合、数万から数十万の人の目に嘘情報が触れる可能性もあり影響力は少なくありません。
今回はこの「釣り」について掘り下げてみたいと思います。
■嘘は嘘でも「楽しい嘘」なら問題ない
嘘をつくことは一般社会の常識では「するべきでないこと」といえるのは異論のないところではないかと思います。インターネット上のことも決して仮想現実ではなく、現実の延長上にあるものである以上、この一般論はインターネット上の言論にも当然当てはまります。
しかし一方で、「釣り」が存在することで話が盛り上がったりすることも、実際上しばしばあります。なぜ盛り上がるかの理由を考えると、個別の「釣り」の内容によって色々あるとは思いますが、「面白いから」ということに集約されるのではないかと思います。
そのように考えると、その「釣り」及びそれに続く話題に参加している人は、その釣りを楽しんでいると言えます。そして、インターネット上には「釣り」というものがあるということも、一定程度認識されています。
したがって、人を傷つけるような内容でない限りは、「釣り」は「そういうもの」として認識され、許容されているとみることができると解釈できます。
一般社会においても、人を傷つけたり、他人に迷惑をかけるような嘘でなければ、責められることは通常はないと思われることとパラレルに考えられます。
■他人を不快にさせる内容は書くべきでない
「釣り」をすることは、一般的に違法であるということはできませんが、その内容を見て不快に感じる人もいるかもしれません。
もちろん、単に「書いている内容が気に食わない」といったものは法的保護の対象外ですが、「釣り」が特定の個人をあげつらうものであったり、批判したり、褒め殺すようなものは、当該特定人の名誉やプライバシーといった権利を侵害しかねません。
この場合は、内容次第によって、慰謝料請求の対象になり得ます。
実際に慰謝料を請求しようと思えば、誰が書き込んだのかを特定する必要があるなど、手間はかかります。
しかし、そのようなリスクもあるということは一応認識しておいてもよいのではないかと思います。「釣り」をするにしても、楽しい話題の提供を心がけて欲しいと思います。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)