ネット通販大手のAmazonが大学生などに対して書籍の価格の10%をポイントで還元しているサービスが、「事実上の大幅値引きで再販契約違反にあたる」として一部の中小出版社が、Amazonへの出荷を停止することを決定したそうです。
この「再販契約」「再販制度」という言葉、出版業界の特徴のひとつとして耳にすることが多いですが、一体どういったものなのでしょうか。その問題点なども含めて、改めて簡単におさらいしてみたいと思います。
■再販制度って何?
再販売価格維持行為のことを指しており、商品のメーカーが小売業者に対し、小売価格の変更を許さずに定価で販売させる制度です。
メーカーが小売業者の小売価格を拘束できるとすると、小売り段階での価格競争が起きないため、メーカー、小売業者ともに安売り競争による消耗戦を回避できるというメリットがあります。他方、当然、消費者にとっては、需要と供給のバランスに関わらず、定価での購入を余儀なくされるため、不利益を被ります。
そこで、独占禁止法では、再販行為を資本主義経済の自由競争の理念に反する「不公正な取引方法」と位置づけ、原則として禁止しています。
■独占禁止法の例外
独占禁止法は、1953年の改正により、本などの著作物について、例外的に再販制度を容認しています。
本などの著作物について例外的に再販制度が容認された理由は諸説ありますが、出版物は代替性がなく、種類、新刊発行数も膨大であり、再販制度がなければ、本の種類が人気のあるもののみになり、内容も偏り、地方での価格が上昇し、町の本屋さんが過当競争でつぶれる弊害などが指摘されています。
■見直しの動き
しかし、本のように代替性がなく、種類・新刊発行数が膨大であり、輸送の便が悪い地方都市で価格上昇する商品はいくらでもあり、小売業者が過酷な競争にさらされている業界はいくらでも存在します。
本などの著作物を特別扱いする趣旨は、文化的発展に寄与するものであるということにも理由がありますが、これとて、本以外は文化の発展に関係ないとは言い切れません。
そのため、近年では、もはや本などの著作物のみを特別保護する理由はなく、再販制度は廃止すべきであるとする意見も強く出ており、独占禁止法の改正に向けた議論もなされているところです。
■再販制度がなくなったら
小売業者は、自由に価格設定できますので、競争原理が働き、消費者にとっては今よりも安く本を買えるようになるメリットがあります。他方、文化的学術的価値はあるのに一般消費者向けには売れにくい本や需要が少ない本は、なかなか店頭に並ばないという弊害が生まれる可能性はあります。
再販制度を維持すべきかどうかは、簡単には判断できないものです。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)