「在庫がなくなるから止めてください。」
食べ放題の店で店員にこのように言われた場合、客は店に対し、契約の解除や損害賠償の請求をすることができるのでしょうか?
弁護士目線で解説してみたいと思います。
■食べ放題契約?とは
当然ですが、「食べ放題契約」なるものは民法等の法律で定めがありません。
食べ放題と一言で言ってもその形態は様々であり、「食べ放題契約」なるものがいかなる内容であるかは、各々の店と客の間の個別契約の解釈の問題になると考えられます。
もっとも、一般的な「食べ放題契約」の内容を具体的に検討してみると、以下のような内容になることが多いでしょう。
すなわち、店が客に対し、一定の時間内、食べ放題メニューの食べ物を継続的に提供する債務(義務)を負い、一方客は店に対し、あらかじめ定められた定額の代金を支払う債務(義務)を負うというものです。
■「食べ放題メニューの食べ物を継続的に提供する債務(義務)」とは
「食べ放題契約」の当事者である店と客の契約時の合理的な意思を解釈すると、店は客に対し食べ放題メニューの食べ物を無制限に提供する義務(在庫がなくなったら調達する義務)までは負わず、店が席数・制限時間・営業時間・客足の総数から通常想定されるに足りる量の食材を仕入れている場合には、その在庫の限度で食べ物を提供すれば、「食べ放題メニューの食べ物を継続的に提供する債務(義務)」を履行していると評価するのが合理的でしょう。
これを基に一般的な「食べ放題契約」の内容を再度検討すると、店が客に対し、一定の時間内、食べ放題メニューの食べ物を在庫がある限り継続的に提供する債務(義務)を負い、一方客は店に対し、あらかじめ定められた定額の代金を支払う債務(義務)を負う契約と具体化できます。
■在庫切れになりそうなことを理由に食べ物の提供を拒否された場合
「食べ放題契約」は店と個々の客との間の契約なので、この契約に対し他の客と店との関係は原則として何ら影響を及ぼさないと考えられます。
そうだとすると、在庫が切れていないにもかかわらず、他の客に食べ物を提供できなくなることを理由として、ある客に対し食べ物の提供を拒否することは原則として難しいと考えます。
これを踏まえると、例えば「●●は1人3個まで」「●●は1人3皿まで」などの注意書き等がない限り、在庫が切れていないのに特定の客に対して食べ物の提供を拒否することは難しいかもしれません。
■まとめ
以上のように、在庫切れを理由に食べ物の提供を拒否された場合は、店側に債務不履行は認められないので、契約の解除や損害賠償請求はできないでしょう。
もっとも、在庫があるにもかかわらず食べ物の提供を拒否された場合には、店側に債務不履行が認められうるので、店側に故意又は過失が認められる限り、客は契約の解除により(一部)返金される可能性があります。
さらに、上記義務違反により客に損害が発生したと認められる場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求ができる可能性もあります。ただし、ある食べ物は提供されなかったが他の食べ放題メニューの食べ物の提供は問題なくされていた場合、客にいかなる損害が発生したといえるかの算定は困難でしょう。
*著者:弁護士 鈴木翔太(弁護士法人 鈴木総合法律事務所)