PTAの役員にまつわる困った事情を掘り下げた記事が新聞サイトに掲載されていました。
「6年間、役員にならなかった方には学校のトイレ掃除をしていただきます」というルールがあったり「子供が学校から茶封筒を持ち帰ったら、それはPTAからの“召集令状”」という認識を持つ親がいたりと、PTA役員就任は親に大きなプレッシャーとしてのしかかっていることが記事から伺い知れました。
記事には下記のような記述もありました。
「憲法21条は『結社の自由』つまり結社しない自由も認めている。参加強制は『違憲』」
(中略)
「PTAは入退会自由」は文部科学省も認める原則だ。
だとすると、PTAがあたかも全員参加が義務であるかのような印象を親たちに与えプレッシャーを感じさせるのは間違っているのではないでしょうか。記事で触れられていた個別の具体的な事例を抜粋し、適法かどうかを検討していきたいと思います。
■まずPTAとは何か
PTAとは、「各学校ごとに組織された保護者と教職員による社会教育関係団体」のことです。英語の「Parent-Teacher Association」を略したものです。
PTA結成の法律上の根拠の1つは、憲法21条1項の結社の自由です。国民は誰しも自由に「団体」を結成することができるので、当然、保護者と教職員がPTAを結成できるのです。
さらに、社会教育法第3章「社会教育団体」の部分が根拠として挙げられます。しかし、この法律は、明文でPTAの結成や運営のルールを定めてはいません。規定の内容から、PTAの存在が前提になっていると考えられるにすぎないのです。
■PTAに参加は義務なのか
保護者や教職員に対してPTA参加を義務付ける法律は、日本には存在しません。しかし、学校に子どもが入学すると、参加が強制される、あるいは参加を前提として役員就任を強制されることや、会費が徴収されることは珍しくありません。
憲法は公権力と国民との関係を規律するルールなので、民間団体と個人との関係について、直接は適用されません。しかし、人権保障の精神は、このような関係でも尊重すべきとされています。PTAと保護者の関係にも、結社の自由の精神が尊重されるのです。
「結社の自由」には、団体を作る自由の他、団体に加入する自由、加入しない自由も含まれます。団体が、その対象者に対して参加強制するには、参加強制が合理的で、かつ、参加を義務付ける法律が必要です。
先ほどもお話ししたように、日本には、保護者や教職員にPTA参加を義務付ける法律はありません。「保護者全員会員」などと未参加の保護者に参加強制することや、参加の意思表示をしていない保護者に対して、参加したものと扱って「1度も役員をやらない人は学校のトイレ掃除」などと強制することは違法です。
もちろん、会費を徴収することもできません。徴収した会費は返還しなければなりませんし、強制の程度によっては、無理強いした人らが慰謝料を支払わねばなりません。
このようなトラブルを防ぐには、対象者にルールを理解してもらうこと、加入や脱退の意思を明確に表示できる機会を設けることが必要です。例えば、新年度ごとにPTAから保護者や教職員に対して、パンフレットを配布したり、説明会を開いたりした上で、参加を申込制にすることが考えられるでしょう。
*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)