イリノイ州ピオリアの警察が、Twitterでピオリア市長になりすましたアカウント「@Peoriamayor」を作ったと疑われる人物に対して家宅捜索を行い、PCと携帯電話を押収したということが話題になっています。
このアカウントには、プロフィール画像に市長の画像が使用され、経歴やメールアドレスも市長の正規のものが記載されていたとのことです。
どのような理由で家宅捜索を受けたということまでは報じられていませんが、日本においても同じようなことが起こりえるのか、検討してみようと思います。
■なりすましただけでは犯罪にならない
ある人物になりすましたアカウントを作ること、それ自体を犯罪とすることは難しいです。
犯罪が成立するためには、予め法律によって犯罪として定められていることが必要で、かつ、その要件を満たすことが必要となります。これを罪刑法定主義といいます。
「なりすましのアカウントを作ること」そのものを犯罪とするためには、そのような罪が存在している必要がありますが、現状、そのような法律はありません。
したがって、アカウントを作るだけでは犯罪として成立させることは困難といえます。
■内容により名誉毀損罪が成立する余地がある
しかし、なりすましアカウントから、たとえば「ドラッグをやった」などといった犯罪行為を行ったという投稿がされた場合を考えてみましょう。
この場合、なりすましアカウントであると知っていれば問題ないかもしれませんが、そうでない場合がむしろ一般的だろうと思われ、なりすまされている人物(本人)がドラッグ(すなわち違法薬物)を使ったという誤解を受けることになります。この場合、なりすまされた人物の社会的評価は低下することになります。
もちろん、なりすましなので、本人からすれば全くの事実無根ということになるでしょう。
この場合、その行為は名誉毀損を構成することなります。
どうやら「@Peoriamayor」というアカウントを使っていた人物も、セックスやドラッグを暗示させるようなツイートをしていたということのようです。イリノイ州の法律がどうなっているかまでは分からないのですが、おそらく名誉毀損などを理由に捜索を受けたのではないかと想像されます。
■パロディアカウントであると明示してもNGの場合がある
では、「なりすましです」とか「パロディアカウントです」ということを明示していれば問題ないのでしょうか。
この点はケースバイケースで判断するしかないと思いますが、「なりすましです」とか「パロディアカウントです」ということを明示していたとしても、なりすまされた人物(本人)の社会的評価が低下するであろうといえる状況があるといえれば、やはり名誉毀損罪は成立し得ます。
なりすますことの何が楽しいかは分かりませんが、このように犯罪が成立する可能性があることであるため、安易に行うことは避けるべきといえます。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)