転勤で突然の「引越し」賃貸契約を正当に解除できる?

就職も決まり会社近くにマンションも借りたけれども、1年後に海外転勤が決まったため、すぐに引越しをしなければならなくなった、という話はよく聞きます。

このような場合、賃貸契約をすんなり解約させてもらえれば問題は無いのですが、法律的に何か月か前に通知しなければいけないとか、何か月分の解約金を払わなければいけない等の決まりはあるのでしょうか。

今回は、スムーズな賃貸契約の解約のために知っておくべき法律的な知識について解説したいと思います。

賃貸契約

■大原則

まず、一般の居住用ワンルームマンションなどの賃貸契約の場合、2年~3年の期間が設けられているのが通常です。

この場合、大家側にとっては、「この期間は賃料収入が安定して得られる」との期待が、賃借人側にとっては、「この期間はこのマンションに居住できる」との期待があるので、このような期待を保護するため、原則として、大家側からも賃借人側からも、期間の途中で賃貸契約を一方的に解約することはできません。

■例外

もっとも以下のいずれかに該当する場合は、期間の途中であっても賃貸契約を解約することが可能です。

(1)当事者の合意がある場合

当事者がお互いに「途中で解除しましょう」との合意に達した場合に認められる解除で、いわゆる「合意解除」と呼ばれるものです。

(2)予め賃貸契約書で解除権が留保されている場合

賃貸契約書の条項で「何か月前の通知があれば解除して良い」「何か月分の違約金を支払えば解除して良い」等の条項(以下「解約条項」といいます)が明記されている場合に発生する解約権に基づく解除で、いわゆる「解約」と呼ばれるものです。

なお、大家側にこの意味での解約権を認める解約条項は借地借家法30条により無効と解されます。

(3)債務不履行(契約違反)に基づく場合

当事者の一方に契約違反行為(無断転貸、無断増改築、相当期間の賃料不払い等)があった場合に認められる解除で、いわゆる「解除」と呼ばれるものがこれです。

■解約違約金

上記のうち、今回のような転勤等の事態に備えて、賃借人側の便宜のために設けられるのが(2)です。

賃貸契約においては、上記(2)のような解約条項が設けられているのが通常ですので、今回のケースでも、賃借人は解約条項に基づく解約を主張して、賃貸契約を解除することができるとも思えます。

しかしながら、この手の解約条項では、「何か月分の家賃(違約金)を支払えば即時に解除することができる」等として、いわゆる「違約金」の支払いが解約の条件とされている場合がほとんどです。

違約金とは、「損害賠償額の予定」と呼ばれるもので、要するに、「この期間は賃料収入が安定して得られる」という大家側の期待権が中途解約により害されることにより生じる損害(急きょ新たに賃借人を募集しなければならなくなったことによる損害)の金額を予め賃貸契約書の中に定めておき、実際に生じた損害額に拘わらず、一律に賃借人に請求できるというもので、民法上は有効とされています(民法420条)。

もっとも、他方で、消費者契約法9条1号では、このような損害賠償額の予定に関し、「平均的な損害の額を超えるもの」は「当該超える部分」につき無効となる旨規定されているため、あまりに高額の違約金を定めた場合、違約金条項は無効となります。

東京簡裁平成21年8月7日判決でも、「賃貸借契約において、賃借人が契約期間途中で解約する場合の違約金額をどのように設定するかは、原則として契約自由の原則にゆだねられると解される。しかし、その具体的内容が賃借人に一方的に不利益で、解約権を著しく制約する場合には、消費者契約法10条に反して無効となるか、又は同法9条1号に反して一部無効となる場合があり得る」と判示されています。

■違約金はいくらまでならOKか

問題は、どの程度の違約金なら許されるか否かです。

これについては、実際に居住していた期間や物件の性質(一軒家かワンルームマンションか否か)等によっても異なりますので、一概に「賃料の何か月分までなら有効」と断定することはできません。

もっとも、前掲裁判例では、「一般の居住用建物の賃貸借契約においては、途中解約の場合に支払うべき違約金額は賃料の1ヶ月(30日)分とする例が多数と認められ、次の入居者を獲得するまでの一般的な所要期間としても相当と認められること」等から、解約により受けることがある平均的な損害は「賃料の1ヶ月分相当額であると認めるのが相当である」と判示しています。

また、東京簡裁平成21年2月20日判決でも、解約により受けることがある平均的な損害は「賃料・共益費の1ヶ月分相当額であると認めるのが相当である」と判示しています。

したがって、居住用のマンションにおいては、「賃料の1か月分」というラインが、違約金が有効とされる一応のメルクマールになるということは言えるでしょう。

このように、転勤等,賃借人側の一方的な事情による中途解約の場合、一定の違約金は覚悟しなければなりませんが、高額な違約金を請求されそうな場合には、事前に大家さんに事情を説明した上、よく話し合う必要があるでしょう。

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