新たな出逢いにあふれるシーズンがやってきました。会社にとっては、戦力として期待する新入社員との仕事をスタートする節目でもあります。
しかし、元社員が就職口コミサイトに書いた会社批判のおかげで、新入社員のモチベーションが下がってしまったり、入社を志望する人の印象を悪くしてしまったりしたとしたら、会社にとって大きな損害です。
このような損害に関して、法的にどのような対応できるのかを概説しようと思います。
■ネット上でされた中傷について対応する方法は2つ
ネット上でされた誹謗中傷についての対策としては、基本的には「削除する」という方法と「投稿者を特定する」という方法2つに大別されます。
削除は文字通りネット上から書き込まれた情報を削除するということであり、被害への対策として直接的です。
これは、プロバイダ責任制限法(のガイドライン)に基づく送信防止措置という方法か、削除仮処分といった方法を用いて行います。
特定は、特定すること自体に意味があるのではなく、特定後にその人物に対して今後、同じようなことをしないように警告したり、損害賠償を求めたり、場合によっては刑事告訴をしていくために行うものです。
これには、プロバイダ責任制限法が定める発信者情報開示請求という方法を用います。
■対策をするためには権利侵害が必要
では、どのような書き込みの内容であっても、削除や特定をすることができるのでしょうか。
会社としては、自社にとってマイナスな情報はなるべく目に触れないようにしたいと考えると思いますが、対策をすることができるのは、原則として権利侵害があるといえるものに限られます。
会社の社会的評価や信用を低下させるものなどが権利侵害といえるわけですが、どこからがダメなのかという判断は難しいです。
個人の意見や感想といった類のものは対策が難しいものになってきます。意見や感想を表明することは、誰でも原則として制限されないことが保障されているためです。
たとえば、「きつい」とか「仕事がつまらない」といったものは個人の意見や感想です。このような書込みが多数されていると、会社の印象は非常に悪くなってくるため、このような書込みを削除したいという相談はしばしば寄せられます。
しかし、ケースバイケースではあるものの、一般的には、このような書込みへの対処は難しいということになります。
■「ブラック」という書込みに権利侵害はある?
では、「ブラックだ」と書き込むことはどうでしょうか。
これも一つの感想といえるのかもしれませんが、ブラックという言葉には労働法規その他の法令に反する労働を強いる企業といった意味合いが含まれてきます(最近は、単に「きつい」くらいの意味で使っている例もないではないですが…)。
つまり、企業としては法令違反をしているのではないかという疑念を持たれかねないわけであり、このような書込みは権利侵害を伴うものであると言い得ます。
もっとも、権利侵害があり得るといっても、本当に法令違反をしているような企業であれば、書き込まれても文句は言えません。そのため、会社としては書き込まれた内容が真実ではないということを積極的に立証していくことが必要になります。この点をクリアしてはじめて対策をとっていくことができることになります。
■安易な書込みは避けるべし
このように説明すると、多くのことを書き込んでもよいのではないかと考える人も出てくるかもしれません。
しかし、本人は書き込んだことが本当のことだと信じていたとしても、単なる思い込みであるとか、実際は異なる運用がされているといったことはよくあります。
軽い気持ちで書き込むことが大きな代償を生むこともあるわけなので、安易な書込みは避けておいた方がよいのではないでしょうか。
また、書込みを閲覧する方も、どこまでが本当の情報なのかということを、きちんと見極めることができるようになることが必要ではないかと思います。