引っ越しの多くなるこのシーズン、金銭トラブルなどとともに新しいお隣さんとの「ご近所トラブル」も、よく耳にするようになります。
「ご近所トラブル」の中でも特に多いのが、「隣の部屋から大音量の音楽が漏れ聞こえてくる」、「上階の部屋の子供の足音がうるさくて夜眠れない」などといったいわゆる「騒音」に関するトラブルです。対応次第では、刃傷沙汰に発展したケースもあります。
そこで今回は、「騒音」をテーマに、お隣さんの騒音に対しどのような法的処置をとることができるのか、そして適切な対処法について、検討してみたいと思います。
とりわけマンションなどのいわゆる集合住宅においては、壁一枚隔てたところで他人同士生活しているわけですから、お互いに一定の生活音が聞こえるのはやむを得ないことです。
例えば、玄関のドアの開閉音であるとか、シャワーの音等は、一般社会生活において当然に生じる音ですので、このような音も一切漏れ聞こえさせてはならないとなれば、とてもマンションになど住めません。
そこで、法的には、このような生活音が「一般社会生活上の受忍限度を超える」程度にまで達した場合にはじめて「違法」と評価され、事案に応じて、隣人に対する騒音行為の差止めや、損害賠償(慰謝料や転居費用の賠償)の請求が認められています。なお、隣人に対し防音設備の設置を命じた判例もあります(東京地裁昭和63年4月25日判決)。
ここでしばしば問題になるのが、いかなる程度が「一般社会生活上の受忍限度」なのか否かです。
■どの程度が「限度」といえる?
これについては、住宅地域か商業地域かという地域の特性にもよりますので、一概に何db(デシベル)以下が「受忍限度」ということはいえませんが、東京地裁平成21年10月29日判決などでは、「騒音規制法」の規制基準が「騒音の程度の参考値にはなる」とされておりますので、同法の基準が、「受忍限度」か否かの一応のメルクマールになるといえるでしょう。
参考までに、昭和44年2月20日都告示第157号の「騒音規制法の特定工場等に係る規制基準」では、「第1種中高層住居専用地域」で、朝(午前6時~午前8時)45db、昼間(午前8時~午後7時)50db、夕(午後7時~午後11時)45db、夜間(午後11時~翌日午前6時)45db、とされています。
ですから、騒音被害により損害賠償の請求をするような場合には、業者に依頼して音の大きさを計測し記録しておくことも重要でしょう(なお、都内では、区役所で計測器具を無料で貸し出している場合も多いです)。
■単純に音の大きさだけではない
もっとも、東京地裁平成21年10月29日判決では、「一般社会生活上の受忍限度を超えるものであったか否かは、加害者側の事情と被害者側の事情を総合して判断すべきであり、具体的には、(1)侵害行為の態様とその程度、(2)被侵害利益の性質とその内容、(3)侵害行為の開始とその後の継続状況、(4)その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等を総合して判断するのが相当である」と判示されていますので、音の大きさが騒音基準法の基準値を超えれば即「受忍限度を超えて違法」かというと、そういうわけではありません。
東京地裁平成19年10月3日判決でも、「第1種中高層住居専用地域」にあるマンションの階上住人の子どもの足音につき、「ほぼ毎日本件音が原告住戸に及んでおり、その程度は、かなり大きく聞こえるレベルである50~65dB程度のものが多く、午後7時以降、時には深夜にも原告住戸に及ぶことがしばしばあり、本件音が長時間連続して原告住戸に及ぶこともあった」と認定した上、「被告は、本件音が特に夜間及び深夜には原告住戸に及ばないように被告の長男をしつけるなど住まい方を工夫し、誠意のある対応を行うのが当然」であるにもかかわらず、「その対応は極めて不誠実なものであった」として、「特に被告の住まい方や対応の不誠実さを考慮すると、本件音は、一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えるものであった」と判示しています。
要するに、「受忍限度」か否かは、単純に音の大きさだけでなく、騒音に対する隣人の対応等も加味して判断されているわけです。
したがって、逆に隣人から、「子供の足音がうるさい」、「テレビの音がうるさい」などと苦情を言われた場合には、子供にしっかりと注意をするとか、フローリングの上にじゅうたん敷くとか、深夜はヘッドホンで音楽を聴く等の対応をしておかないと、それだけ隣人に対し転居費用や慰謝料等の賠償をしなければならなくなるリスクも高くなると考えられますので、結局は、隣人同士できる限り誠実な対応をするということが大切であることは言うまでもありません。