「パチンコ店の出店を予定したビルの隣の建物に、市が条例を改正して図書館を設置したため、風営法の規制を受けることになり、パチンコ店の出店が不可能になった。市の条例改正は、出店を阻止する目的でされたものであり、違法な公権力の行使だ!」
パチンコ店経営会社等が、東京都国分寺市に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、市は、同社側に約4億5,000万円を支払うことで和解する方針を固めました。この和解金は、第1審の判決で支払が命じられた約3億3,400万円に遅延損害金を加えたものです。
■風営法による距離制限
風営法は、「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する」ことを目的に、風俗営業について営業の許可・届け出、営業時間の制限、警察官の立ち入り等を定めた法律です。
風営法上、パチンコ営業は「風俗営業」にあたると規定されていますので、パチンコ店を開業するためには、公安委員会の許可を受けなければなりません。
そして、風営法は、公安委員会は風俗営業所が都道府県の条例で定める地域内にあるときは営業の許可をしてはならない、と定めています。この規定を受け、東京都の条例及びその施行規則は、公安委員会は図書館の敷地からの距離が50メートル未満の区域内では風俗営業の許可をしてはいけない、と定めています。
本件では、市が、国分寺市立図書館条例を改正し、原告がパチンコ店を出店する予定であったビルの隣の建物に図書館を設置したため、風営法による距離制限規定の適用を受けることになり、パチンコ店の出店が不可能になったのです。
■行政の裁量逸脱
裁判では、市が意図的にパチンコ店の出店を妨害したかどうかが争点となりました。
第1審東京地裁は、
(1)市議会では、前市長や議員らが、パチンコ店の出店を阻止するための対策につき検討を重ねてきたこと、及びパチンコ出店が実現するおそれが生じると、異例の速さで条例改正を行ったことなどから、条例改正は、パチンコ店の出店を阻止することが、主たる目的ないし動機であった。
(2)風営法及び風営法関連条例等の規定の趣旨は、図書館施設の近隣地域内において良好な風俗環境を保全しようとする点にあるから、本件条例改正は、法の趣旨を逸脱してこれらの規定を利用することにより、パチンコ店の出店を阻止したものである。
(3)したがって、本件条例改正は、原告の営業上の権利を侵害するものであり、社会的相当性を逸脱する行為として違法である。
と認定し、市に対し、約3億3,400万円の支払を命じました。
条例改正など市の行為には、一定の裁量があります。したがって、市の行為は、法律によって許容された裁量の範囲内にある限り、当不当の問題になることはあっても、適法違法の問題とはなりません。しかし、市の行為が、法の趣旨・目的から逸脱したものである場合や、不正な動機に基づく場合には、裁量の範囲を逸脱するため、違法となるのです。
本件では、既にパチンコ店が出店予定であったにもかかわらず、それを阻止するために後から条例改正がされています。行政の行為といえども、いわば「後出しじゃんけん」は許されないのです。