駐日ガーナ大使が借りていたビルの一室で、カジノを営業したなどとして、カジノ店の従業員10人と客2人を逮捕したと警視庁が発表しました。
外国からの大使などには、外交上、一般の市民と異なる特権や免除が認められています。このような特権や免除は、映画や小説でも題材として取り上げられています。一般の市民には認められない特権や免除とはどのようなものでしょうか。
■特権や免除とはどのようなものか
外交使節団や領事機関に認められている特権や免除には、外交使節団や領事機関そのものに認められるものと、外交官や領事官に認められるものがあります。
今回確認しておきたいのは、外交使節団が使用する公館や住居の不可侵権で、次のように定められています。
外交関係に関するウィーン条約
第二十二条
1 使節団の公館は、不可侵とする。接受国の官吏は、使節団の長が同意した場合を除くほか、公館に立ち入ることができない。
2 接受国は、侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため及び公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する。
3 使節団の公館、公館内にある用具類その他の財産及び使節団の輸送手段は、捜索、徴発、差押え又は強制執行を免除される。
第三十条
1 外交官の個人的住居は、使節団の公館と同様の不可侵及び保護を享有する。
使節団の公館には、公邸も含まれます(同条例第1条(i))。受け入れ側の日本としては、公館や住居に立ち入ることもできないのです。日本の中に外国がある、と言ってもいいかもしれません。
また、今回の事件でガーナ大使の関わりも取りざたされていますが、外交官には身体の不可侵権(同条約29条)や裁判権等の免除(同条約31条1項)が認められており、逮捕することもできなければ、刑事訴追することもできません。
■なぜ特別扱いをしているのか?
それでは、なぜこのような特権や免除が認められるのでしょうか。考え方はいくつかあります。歴史的には、外交使節団や領事機関の所在場所が派遣国の領土であるという考え方が有力でした(治外法権説)。とても分かりやすい考え方です。
しかし、国家の主権が確立し、国家間の平等が尊重されている現在では、受入れ側の国家主権が及ばないとの考え方は説得的ではありません。昨今では、「国を代表する外交使節団の任務の能率的な遂行を確保することにあること」(同条約前文)にその根拠が求められています。
外交関係や領事関係は、国家主権が認められた国際社会において必要なものであるから、お互いに尊重し合うということです。そこには、国家間の相互の信頼が前提として存在します。
■外交特権の刑事手続への影響は?
カジノを営業する行為は賭博する行為は、賭博場開帳罪(刑法186条2項)にあたりますし、賭博行為そのものには賭博罪(刑法185条)が成立します。
しかし、不可侵権のため、日本の警察は公館内でのできごとについて事実上捜査ができません。現場の確認が全くできないのですから、立件することはできないでしょう。
派遣国側が日本にとって好ましくない行為をした場合、これらは外交上の問題として扱われることになります。特権や免除を濫用してしまえば、それは国家の不利益として返ってきてしまう可能性がありますし、国家としての信頼を傷つけてしまいます。
■店は公邸ではなかった?
今回のカジノ側は、「大使館だから警察に捕まらない」などと言って客を集めていたようです。
公館や住居の不可侵権は、その場所が派遣国の使節団にとって必要であって、使節団の任務のために使用されるからこそ認められているものです。在日ガーナ共和国大使館は今回の店とは別の場所にありますし、大使がカジノ営業のために借りていて、外務省に対する届け出られてもいないのであれば、公邸とも認められず、不可侵権は認められないのではないでしょうか。
外交特権があるから安全だなどと思ってカジノに行ってしまうと、自身の行為が犯罪行為となるだけでなく、国家間の軋轢の一端を担ってしまうかもしれませんね。