今月23日21時頃、川崎市を走る小田急線の急行列車から男性が飛び降りたために小田急線が40分間運休し、2万7千人に影響が出たというニュースがありました。
多摩署によると男性は女性客から「痴漢をした」と疑われトラブルになっていたそうです。別の報道によると男性は線路から走って逃げもしていたとのことですが詳しい事情は分かりません。
痴漢や逃亡についてはともかく、飛び降りるという常軌を逸した行動により多くの利用客に悪影響をもたらしてしまったこの男性には、問われるとしたらどんな罪があてはまるでしょうか?
日々電車を利用していてもしょっちゅう起こる、いわゆる人身事故を含めたこうしたトラブル、万が一私たちがその原因となってしまわないよう、予防の意味で知識を蓄えておきましょう。
列車から飛び降りた犯人の行為は、威力業務妨害罪に該当し、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります(刑法234条)。
威力業務妨害罪は、人の意思を制圧するに足りる勢力(威力)を示して、被害者の正当な業務活動を妨害する犯罪です。
人が走行中の列車から飛び降りれば、鉄道会社は、人命の救助、運行の安全の確保、犯罪捜査への協力等のため、列車の運行を停止せざるをえませんので、行為自体の異常性、強行性に鑑みれば、人の自由意思を制圧するに足りる勢力を示して鉄道会社の正当な旅客運送業務を妨害したと言えます。
過去の報道を見ると、酒に酔った二人が線路内に立ち入り、隣駅まで線路上を歩いて移動したことで列車の運行を停止させ、威力業務妨害の疑いで逮捕された事例があります。
また、ホームから集団で線路上に立ち入り、線路上を近隣の駅まで移動した行為について、列車の運行を不可能な状態に陥れたとして威力業務妨害罪の責任を問われた先例もあります(東京高裁昭和48年4月6日判決)。
たとえ刑事事件として立件処罰されなくとも、民事では、列車の運行を妨げたことによる損害、すなわち、振替輸送などで発生した費用や鉄道会社の従業員等が対応に当たらざるを得なくなったことによる人件費、運休によって発生した営業損失など、鉄道会社から多額の損害賠償を求められることもあります。
またマスコミ報道による信用の失墜、勤務先からの懲戒処分など、経済的・社会的不利益は想定を超えることがありますので、よくよく考えて行動しなければなりません。