大手検索サイトGoogleで自分の名前を検索したことはありますか?関連すると思われるキーワードを推薦する機能「サジェスト」が働き、驚くような単語が並ぶことがあります。
例えば日本の総理大臣の名前で検索するとサジェストには「子供」「妻」「身長」といった言葉が挙ってきます。この程度ならば良いのですが中には犯罪を想起させるような場合もあり、当人から見れば迷惑な事態となるケースもあるようです。
今月15日、このサジェスト機能によって身に覚えのない犯罪行為を連想させる単語が表示されたために職場から退職に追い込まれたとして「表示の差止め」などを求めてGoogleを訴えていた裁判において、東京高裁が1審を取り消す判決がありました。
1審は表示の差し止めを命じる判決として話題になりましたがそれが正反対に覆された形です。係争中の裁判ではありますが、インターネットに関連した法律問題を多く扱っている私が簡単に解説していきます。
判決を直接見ているわけではないのですが、報道によると「単語だけで男性の名誉が傷つけられたとは言えず、男性が被った不利益は、表示停止でサービス利用者が受ける不利益より大きくはない」ということが結論が覆った理由であるようです。
■「人格権」とは?
表示の差止めを求めるためには、人格権侵害があるということを裁判所に認めてもらう必要があります。「人格権」というのは、法的に保護される利益のうち,人間の人格と切り離すことのできないものの総称であり、名誉権やプライバシー権などがこれに該当します。
どのような状況になれば人格権が侵害されたといえるのかは、ケースバイケースの判断にならざるを得ませんが、今回のケースでは、名前を検索すると犯罪を想起させるような表示がされる場合であったということなので、その人物が犯罪者であるといった誤解を生じさせる可能性があります。したがって、名誉権やプライバシー権が侵害されていると言い得ると思います。
しかし、高裁判決は、単語だけでは名誉が傷つけられないとしており、人格権侵害を否定しています。高裁が、地裁では認めていた人格権侵害を否定した詳細な理由は分かりませんが、名前+犯罪名という表示がされたとして、たとえばその犯罪に関する権威であるとか、その犯罪に関して何かしら有名な論文を発表したといったことからサジェストされるということもあり得るわけで、そのようなことを考えると「単語だけでは名誉が傷つけられない」という判断になることもあり得るわけです。
このように、見方を変えれば、何が人格権を侵害しているのかということが流動的になるわけです。もっとも、サジェストも含めたキーワードで検索した際に表示される検索結果に、ネガティブな内容のものばかりが表示されるというのが実態であろうと思います。
■恐ろしい「サジェスト汚染」とは?
そして特に、最近は、「サジェスト汚染」という被害が多く見受けられる状況です。サジェスト汚染というのは、ネガティブキーワードを含む書き込みを大量に繰り返すことにより、サジェストをネガティブなキーワードで埋めることをいいます。サジェストにネガティブなキーワードが並ぶことで、当該人物・企業が問題ある人物・企業であると誤解されやすくなってしまうわけです。
報道を見る限りでの個人的な意見ではありますが、高裁はこのようなインターネットにおける実態を果たして正確に理解しているのか疑問があります。「ネガティブな情報はあえて自分から見なければよい」といった意見も出てきたりしますが、そのような意見もインターネットや社会の実態を知らない者が言っているに過ぎないものと思います。
地裁が言っていることが正当なのではないかという気はしますので、男性が上告をするのであれば是非頑張っていただきたいと思っています。