先日、Facebookでの誹謗中傷について、東京地裁で「発信者情報を開示せよ」という仮処分決定を発令してもらうことができました。
これは、誹謗中傷をした人物に対して慰謝料請求などをするために行っているものです。Facebookでの情報開示の仮処分決定は初めてのことです。
今までは知らない誰かに誹謗中傷されても、泣き寝入りしていた方もいるのではないかと思います。
そこで、今回の件を踏まえて、被害に遭ってしまった場合にはどのような行動を取ればよいかを概説してみようと思います。
■「特定」するためには、最低でも2回の開示請求が必要
Facebookに開示請求をすれば、それだけで誰が誹謗中傷をしていたのかが分かると考えている人が多いかもしれませんが、そうではありません。
相手を特定するためには、FacebookからIPアドレスなどの情報を開示してもらった上で、そのIPアドレスから判明する接続プロバイダ(OCNなど)に対して、契約者の情報を開示してもらうという2段階の手続きが必要になります。
そして、それぞれの請求は裁判手続を使わずに行うことは可能ですが、裁判所に命じられないと開示をしないというのが基本的な態度であるため、実際に開示をさせようとするのであれば、裁判手続が必要になります。
■証拠をきちんと保存をすべし
開示請求をするためには、どのURLにその問題の書込みが存在している(いた)のかということが明確になっている必要があります。
そのため、誹謗中傷の書込みがあるということに気づいたら、その状態をURLが明確に分かる形で証拠化することが必要です。
紙に印刷するのでもよいですし、PDF出力するのでも、スクリーンショットに撮るのでもよいと思います。ただ、URLが明記されている形で出力されていない例が多いので、その点を気をつけるべきです。
特に、スマートフォンで閲覧している方も多いと思うのですが、スマートフォンではURLが表示されていないことも多いので、証拠として不適格となる場合も多いです。そのため、できればPCを利用して証拠の保全をするように心がけてください。
■Facebookの特殊性と難しい点
ここまでのことは、インターネット上のことであれば基本的に当てはまるのですが、Facebookは海外法人であるという点で特殊性があります。
Facebookにも日本法人があるのですが、Facebookのサービスを提供しているのは海外法人であるとされています。つまり、日本法人に対して請求をしても対応してもらうことができません。
そのため、請求は海外法人であるFacebookに起こす必要があります。
ちなみに、この点はTwitterやGoogleが相手になるときも基本的に同じことになります。
実際に開示してもらおうと思えば裁判手続が必要ですが、裁判を起こすためには、その会社の登記簿謄本を取得する必要があります。
日本法人のものであれば、法務局に行けばだれでも取得できますが、海外法人となるとそうはいきません。また、裁判をするためには管轄が日本にあるといえることが必要になりますが、この点でも条文の解釈・操作が必要になり、一定の知識が必要になります。
さらに、海外に呼び出しをしなければいけない関係上、書面は英訳する必要があります。
■Facebookは「実名制」か
Facebookは「実名制」であるとしばしば言われます。
たしかに実名登録している人が多いとは思いますが、虚名でも登録することはできます。また、他人が自分になりすましたアカウントを作られることもあります。
したがって、「実名制」といっても、実際には匿名掲示板とそれほど変わるわけではないのです。そのため、Facebookでも誹謗中傷がされてしまうことは当然あり得ます。
ただ、被害にあっても対処ができる可能性が広がったので、困っている方はとりあえず相談をしてみてもらえればと思います。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)