ウクライナの政治混乱に伴い、クリミヤ半島の先端に黒海艦隊の母港を有し同半島にロシア系住民を多く抱えるロシアが、駐留しているロシア軍艦隊基地外に進出し、クリミヤ自治共和国の議会や主要施設を包囲しているとのニュースが駆け巡っています。
欧米各国や日本政府は「国際法違反」と批判していますが、ロシアはどのような国際法に違反するのでしょうか。
■国際法とは?
そもそも国際法は、国内法と異なり、国会のような立法機関が存在しません。
したがって国際法が成立するには、複数国間で条約、協定、協約等の形により国家間で国際的な合意をする必要があります。
これとは別に、明文となっていなくとも、一定期間国際社会において一般的慣行として守られてきたルールも、不文律の国際慣習法として国際法を構成します。
今回のロシアの行動で最も問題となるのは、ウクライナの領土主権を侵害している点と、武力行使とみられる点にあります。
■領土主権の侵害
クリミヤ自治共和国は、ウクライナから高度な自治が認められていますが、ウクライナ領土の一部であることに変わりはありません。
他方、治安維持や軍事行動といった国家活動は、国家主権(国家の統治権)の中核的活動です。したがって、クリミヤ半島で、治安維持や軍事行動をすることは、本来、国家主権を有するウクライナ政府のみができることです。
それにもかかわらず、ウクライナの同意なく、駐留を認められている黒海艦隊基地外に進出し治安維持や軍事活動を行うことは、ウクライナの主権を侵害する行為であると考えられます。
国際慣習法上、他国の主権を尊重し侵害してはならない義務があると考えられており、ロシアの行動はこの意味で、国際法違反といえるでしょう。
■武力行使について
古くは、国際連盟規約(1919年)や不戦条約(1928年)等により、戦争を禁止あるいは制限しようとする試みがなされ、現在は、国連憲章で「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を(中略)慎まなければならない」と規定し、戦争のみならず、武力不行使原則が国際法上の義務になっています。
武力不行使原則は、自衛の場合や国連憲章7章の強制措置等の例外がありますが、ロシアの軍事進行が武力不行使原則という国際法に違反しているともいえます。
■在外自国民保護権とは
他方、国際慣習法上、国外にいる自国民を保護する権利がロシアにも認められます。ロシアは、クリミヤ半島にいるロシア国民がウクライナの混乱によってその生命、財産に危険が生じているので、自国民保護のために軍が行動していることを理由に、国際法違反ではないと主張するでしょう。
■国際法は法ではない?
では、ロシアと欧米の言い分のどちらが正しいかは誰が判断するのでしょうか。オランダのハーグには国際司法裁判所が存在しますが、国内裁判所のように強制管轄権がありません。そのため、国際法に違反するかを判断し、国際法の遵守を強制する機関はないのが実情です。
例えば、国内刑法であれば、警察・検察が強制捜査し、裁判所が違反の有無(有罪・無罪)を判断し、検察官が刑罰の執行を指揮しますが、国際法分野では、国内の警察・検察、裁判所と同様な強制力・権限をもつ機関がありません(事実上、強大な軍事力をもつアメリカがその役目を果たすことがありますが)。
むしろ、国際法を強制的に遵守させる権限をもつ国際機関を設置すると、今度はそれ自体が各国の主権を侵害して国際法違反だということになりかねません。
そうなってくると、強制力がない国際法はいわゆる「法」ではないとも考えられ、実際、国際法は道徳にすぎず、任意の合意でしかないという見解もあります。
ニュースで国際法違反の具体的な内容があまり聞かれないのは、国際法の曖昧さや特殊性にも原因があると推測されます。