「内定欲しいなら他社を断れ」 …就活生を悩ませる「オワハラ」に違法性は

「内定欲しいなら他社を断れ」、「今後一切就活をするな」──

これらの発言は、就活を終わらせろと強要するハラスメントとして「オワハラ」などと呼ばれているようです。

たしかに、莫大なコストをかけて採用活動を行う企業にとっては、内定を出した学生に断られるというのは大きな損失となります。しかし、一社から内定を貰っただけで就活を終わらせたくない学生にとって、相当に悩ましい選択を迫られることとなります。

企業側にも色々な理由があるとはいえ、上記のような発言が法的に許されるのでしょうか?

発言以外にも他にも、内定を断らせにくくするなどの囲い込みを行うなどについても法的に問題はないのかを解説していきます。

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結論から言うと、オワハラも 内容によっては脅迫・強要となることがあります。また、民事上の不法行為にあたるとして損害賠償責任を負う場合もあるかと思います。

具体的なケースを踏まえて解説していきましょう。

 

■脅迫罪

脅迫罪は、告知される本人やその家族の生命・身体・自由・名誉・財産に危害を加える旨告知して脅迫した場合に成立する犯罪です。

脅迫罪は、人の安心感・安全感や私生活の平穏、ひいては人の意思決定の自由を保護するために犯罪とされています。

脅迫罪が成立するためには、「害悪の告知」が認められなければなりませんが、ここでの「害」はそれ自体犯罪となるものでなくてもいいとされています。

したがって、相手が行った不正行為に対し、勤務先にばらすぞと告知する場合も、専ら相手を怖がらせるためであれば、人の安心感・安全感・私生活の平穏・意思決定の自由といった利益を侵害しますので、脅迫罪が成立します。

ただし、脅迫罪が成立するためには、相手が怖がるであろう程度の危害を加える旨の告知が必要です。

 

■強要罪

強要罪は、脅迫や暴行によって人に義務のないことを行わせたり、人が権利を行使するのを妨げた場合に成立する罪です。

 

■内定が欲しいのであればこの場で受けている企業全部に辞退の連絡を入れなさいと言われた場合

異論もあるかもしれませんが、「受けている企業全部に辞退の連絡を入れれば」という条件付きで労働契約の申込を受けているだけであって、就活生を怖がらせるような性質のものでもなく、この申込を承諾するかどうかは就活生の自由ですから、脅迫・強要とまでは言えないと考えます。

就活生としては、「御社は第二志望で第一志望の選考が終わってからでは駄目ですか」と逆に条件提示して交渉すればいいと考えます。

就活生の側にそれでも雇いたいという程の魅力があればいいだけの話です。

 

■他社の選考を受けていることがわかったら内定を取り消すと言われた場合

この場合も異論はあるかもしれませんが、他社の選考を受けたら解除という条件付きの労働契約の申込を受けているだけであって、やはり承諾するかどうかは就活生の自由であり、「今この場でお約束はできません。少し検討させてください。それが無理なら御社の内定は要りません。」と交渉すればいいので、脅迫・強要とまでは言えないと考えます。

 

■内定を出した後、何度も食事に誘って内定を断らせにくくする場合

他社の選考を受けるのに特に支障もなく、脅迫・強要とは言えないでしょう。

 

■誓約書をとる場合

「今この場では書けません。少し検討させてください。」と交渉の余地もあると思いますので、脅迫・強要とまでは言えないと考えます。

 

■内定を出した後、他社の選考を受けたら裁判起こすからとか言った場合

そもそも他社の選考を受けたくらいで裁判上の請求が認められるとは思いませんが、相手を怖がらせるために言ったのであれば脅迫に当たると考えます。

 

■他社の選考を受けたことを責めて脅し土下座させた場合

脅迫によって義務のない土下座をさせたのであれば強要です。

企業からその場での回答を求められる場合、就活生の誠実さ・判断力・対応力等が試されているとも言えます。

よく考え適切に判断し誠実に対応しましょう。

 

*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)

冨本和男
冨本 和男 とみもとかずお

法律事務所あすか

東京都千代田区霞が関3‐3‐1 尚友会館4階

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