あなたも会社も悲惨な目に「セクハラ」防止の法知識

新年度がスタートしました。人数の大小はあれ、あなたの事業所にも初々しい若手社員が入ってくることでしょう。

男女問わず新米には必要以上にひいきしたり、また高圧的になってしまったりと、新しい戦力として期待しつつもそれが裏目に出てしまうことは珍しくありません。

異動も含め新しい出逢いの多いこの季節、ブラック企業批判などで被用者の防衛意識が高まっているなか、「セクハラだ!パワハラだ!」と批判を受け自身や会社の価値を不当に下げてしまうことにもなりかねない、そんな微妙なシーズンでもあると言えそうです。

そこで今回は、改めて知っておきたいセクハラの法知識をおさらいしておきたいと思います。ふとした一言が取り返しの付かない事態となってしまわないよう、こちらも意識を高めておきましょう。

セクハラ

■セクハラとは何か

セクシャル・ハラスメント(Sexual Harassment。以下、「セクハラ」)とは一般的に「職場において行われる相手方の意に反する性的な言動」と定義されます。

なお、雇用機会均等法11条1項はセクハラを「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」と定義しています。

この定義が示す通り、セクハラは大きく分けて対価型(労働者の対応によって不利益を被るパターン)と環境型(労働者の就業環境が害されるパターン)の2つのパターンに分類することができます。

■セクハラの類型(対価型・環境型の例)

性的な言動(詳しくは後述)に対して冷たくあしらったり、強く拒絶したりした仕返しに、配置転換や降格をする場合が対価型の典型例ですね。

他方で、環境型の典型例としては、職場の目に見えるところに性的なポスター(アイドルが水着姿でいやらしいポーズをとっているポスターなんかが該当します)を貼ったり、性的な話題を周囲に聞こえる声でする等して労働者に不快感を抱かせて働きにくくしたりする場合などがあてはまります。

■性別は無関係

ここで、注意しなければいけないのは、セクハラは「男性が女性に対して」行う性的言動に限られないことです。「女性が男性に対して」行う性的言動もセクハラに該当し得ることを認識しましょう。

また、同性間も同様で、これについて厚生労働省は平成26年7月1日から施行となる規則についての男女雇用均等法の改正指針を公布しており、セクハラに同性間の性的言動も含まれることが明示されました。これについては「同性同士でもセクハラに!? 同性へのこんな言動に注意」をチェックしてみてください。

■場所は職場内に限られない

次に、上記定義にある「職場」とは、勤務先(社内)に限られないことにも注意が必要です。

「職場」とは労働者が業務を遂行する場所を指しますので、取引先の社内や出張先の会場、移動中の車内、接待の場(飲食店)も含まれます。さらに、会社が実施する新入社員歓迎会や送別会、慰労会等の飲み会も参加が事実上強制されていたりすると実質的に「職場」であると認定されることもあり得ます。

従って、「飲み会だから無礼講」というわけにはいきません。

■セクハラ行為(相手方の意に反する性的な言動)とは?

最後に、最も関心が高いと思われる「性的な言動」についてですが、例えば、今後の昇進や異動等について不利益をちらつかせて性的な関係を強要すること、不必要に身体に何度も触れること、上記のとおり性的なポスターを掲示すること、過去の性的関係について尋ねること、性的な冗談をいうこと等が該当します。また、食事やデートに誘うことも、相手を性的な対象として意識している以上、性的な言動にあたります。

ここで、難しいのは、性的な言動の中でも、どこまでがセクハラでどこまでがセクハラでないのかということですが、セクハラの定義は「相手方の意に反する」「性的な言動」です。

性的な言動に対する捉え方・感じ方は人それぞれですので、客観的に同じ言動をした場合でも、ある人にとってはその意に反してセクハラとなり、ある人にとってはその意に反せずセクハラとならないことがあるわけですね。

■どうしたらよいのか?

「じゃあ、一体どうすればいいのか」という声が聞こえてきそうですが、上記のように性的な言動に対する捉え方が人それぞれである以上、できるだけ「性的な」言動を避けるというのが無難です。

セクハラに該当するからといって直ちに損害賠償責任を負うわけではなく、そのような責任を負うことになるのは、セクハラ行為の中でも「違法」で、不法行為(民法709条)が成立するものに限られます。

違法かどうかは、実際の各種事情を総合考慮して「社会通念上許容される限度を超えているかどうか」わかりやすく言えば、常識的にみて度が過ぎているかどうか、によって判断するのが裁判例の傾向です。

したがって、「性的な」言動を避けるのが窮屈というかたは、「一般的な女性・男性がどう感じるか」ということを意識して行動するのがよいでしょう。

各種事情とは下記のようなものを指します。

行為の態様、行為者の職務上の地位、年齢、被害者の年齢、行為者と被害者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所・時間、行為の反復・継続姓、被害者に与えた不快感の程度等

■セクハラした人だけの問題ではない

セクハラを原因とする損害賠償請求の訴えが起こされた場合には、セクハラをした行為者が解雇されるなどの不利益を受ける場合のみならず、その行為者が勤める会社も社会的な評価を大きく下げることになること、会社も使用者責任(民法715条)、債務不履行責任(民法415条)を負わされる可能性があること、被害者がうつ病等の精神疾患を発症すると損害賠償の金額は多額になることを頭の片隅にとめておきましょう。

■セクハラと言われないためには自覚が必要

セクハラに該当する言動をしている本人が、自らの言動がセクハラに該当することに気づいていないことが多々有ります。

それは、セクハラを受けている(又は、そう感じている)被害者が抗議しなかった、嫌がる素振りを見せなかったということに起因するのですが、会社内での立場上、被害者は本心をなかなか伝えにくいということをまず理解しなければなりません。

この点に関しては、セクハラの事実の有無について争われた東京高裁平成9年11月20日判決の「職場における性的自由の侵害行為の場合には、職場での上下関係(上司と部下の関係)による抑圧や、同僚との友好的関係を保つための抑圧が働き、これが、被害者が必ずしも身体的抵抗という手段を採らない要因として働くことが認められる。」との判旨が参考になります。

その上で、常に、自らの言動が「一般的に問題ないかどうか」、「いきすぎてないかどうか」ということを振り返って考えるようにする習慣を身につけることが重要だと思います。

 

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川浪 芳聖 かわなみよしのり

琥珀法律事務所

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