川崎で起きた中学1年生が殺害された事件では、直後からネット上での犯人捜しが始まりました。
その中には、実際に逮捕された少年も含まれていましたが、それ以外の無関係な少年少女も含まれていました。「犯人だ」と名指しされ、写真を拡散されるという状況のほか、「死ね」「殺す」といったメッセージも送られ、全くの無関係でありながら外出ができないほどの状況になっていたようです。
自分が同じ被害に遭ったらと考えると、絶対に止めて欲しいことだと感じると思いますが、このような事が当たり前のように行われることが最近では普通になりつつあります。
このように、犯人探しを行い、その情報をネットなどに掲載、拡散する行為などは、法的にどのような問題があるでしょうか。
■名前や写真を挙げた人の責任
まず、犯人であると指摘した人たちは、どのような責任を負うでしょうか。
この件では、「人を殺した」として指摘しているわけなので、犯罪行為を犯した人物であるという事実を指摘しているに等しいです。社会的評価の低下を招く事実を指摘すれば名誉毀損となるのですが、このような指摘はまさに社会的評価の低下を招くことになります。
そのため、犯人であると指摘することは、名誉毀損罪に当たることになります。
■「間違いない」と信じていても責任を負う
そして、これは犯人であると指摘した人が、「間違いない」と考えていても、本件では問題なく成立することになると思います。
社会的評価の低下があっても、(1)公共性、(2)公益目的、(3)真実性(又は(3)’真実相当性)があれば、名誉毀損罪は成立しません。
人を殺しているかどうかという問題であるため、(1)公共性はるでしょうし、犯人を逃がすべきでないと考えていたとすれば、(2)公的目的もあるといえるでしょう。
しかし、実際に犯人ではないのですから、(3)真実性があるとはいえません。
(3)’真実相当性というのは、簡単に言うと、相当な注意を尽くして調査をして誤解した場合を指します。
どのような根拠があったのかは不明ですが、十分な裏付調査などしているとは思われず、おそらく「何となく」とか「直感で」といった理由でしょうから、これを満たすとは到底思われません。
したがって、これも満たすことはなく、名誉毀損が成立することになります。
■流れてきた情報を拡散しただけの人も同罪になる
このような情報がネットに広がった時、正義感を理由に拡散した人もいたことと思います。
しかし、拡散するということと、最初に書込みをすることでは、理論的には何ら変わりません。そのため、「拡散しただけ」という言い訳は、法的には通用しません。
また、しばしば、「流れてきた情報を信じて拡散した」とも言われるのですが、やはりここでも(3)’真実相当性があったかどうかという問題が出てきます。
「ネット情報を読んで、それが説得的だったから信じた」という程度では、これを満たすということはあり得ず、独自に何らかの裏付調査がなければいけません。
ちなみに、裏付調査とはネットを調べるというのは不十分で、たとえば本人に取材をしたり、当時の行動などを詳細に検討するなどといった地道な検証を指します。
このように、安易な「犯人特定」に荷担する結果、自分が“名誉毀損の犯人”になってしまうリスクがあるということは、肝に銘じておく必要があるのではないでしょうか。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)