STAP細胞開発で一躍注目の人となった小保方さんの捏造疑惑について、4月1日に記者会見があり、理研の最終報告では、不正は小保方さん単独で行われた、と報告されました
今回はこの騒動を参考に、もし会社員が「悪意のない間違い」を犯して会社に損害を与えてしまい、会社側にその責任を全て背負わされるようなことがあったとしたら、会社員は会社を相手取って法的訴えを起こすことができるのかどうか、できるとしたらその手順はどのようなものか、検討してみたいと思います。
■会社からの責任追及方法
会社員が「悪意のない間違い」を犯した場合に、会社が会社員の責任を追及する方法としては、懲戒、損害賠償請求、事実の公表などが考えられます。
懲戒とは、会社として望ましくない行為をした会社員に対して課す制裁のことをいいます。戒告、譴責、減給、出勤停止、停職、降格、論旨退職、懲戒解雇などがあります。
懲戒は無制限にできるものではなく、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効」(労働契約法15条)です。
会社が会社員に対して、会社員の行動によって会社に損害が生じたとして、損害賠償を請求することも考えられます。
しかし、この損害賠償請求も、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度においてすることができるとされています(最高裁昭和51年7月8日判決)。
社会的耳目を集めている事件の場合には、会社が事実関係を説明するために記者会見を開く場合があります。このよう公表行為は、会社員の責任を法的に追求するわけではありません。しかし、事件の責任が会社員にあると発表されるような場合は、事実上会社員は社会的評価の低下等の不利益を受けますので、会社員に対して社会的制裁を与えることになるでしょう。
このような場合、公表内容が事実に基づいていなかったり、公益性が認められなかったりする場合には、会社員から会社に対して、名誉を毀損されたとして損害賠償請求を請求したり、公表した内容の撤回を求めることが考えられます。
■従業員が会社に対抗する法的手段
会社の会社員に対する責任追及が違法又は不当である場合、会社員としては、会社に対して自らの言い分を主張することが可能です。
最も簡易な方法は、会社に対して直接働きかけることです。会社によっては、会社内や会社外に専門の相談窓口を用意している場合もあります。
しかし、会社の誠実な対応が期待できなかったり、会社との間で任意の話し合いによる解決ができない場合もあるでしょう。そのような場合は、裁判所における手続きとして民事調停、労働審判及び民事訴訟が利用できます。
民事調停は、民事に関する紛争につき、当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とした非公開の手続きであり、話し合いによる合意を目指します。次の労働審判制度と比較して、より簡易で、より柔軟な手続きとして利用することができます。
労働審判は、労働者と事業者との間に生じた民事に関する紛争に関する非公開の手続きで、民事調停と同様に話し合いによる調停を試み、調停が成立しない場合は労働審判という判断が行われます。原則として3回以内の期日で判断が出されますので、早期の解決が期待できます。そして、労働関係に専門的な知識と経験を有する委員が手続きに参加しますので、法的判断を十分に踏まえた話し合いが可能です。
民事調停や労働審判では解決が難しい場合は、一般の民事訴訟事件として訴えを提起することができます。しかし、労働審判でも解決できないとなると、争いが長期化するかもしれません。
■闇雲に争わず最適な方法を
会社の判断が常に正しいわけではありませんから、会社員は自らの意見を主張することが大切です。しかし、どの手段をとることが最適かを判断するのは簡単ではありません。
会社の意見に反論すると、会社に居づらくなってしまうときもあるでしょう。また、感情的に争ってしまうと、事案の解決はできたとしても、痼りが残ってしまうこともあります。あるいは、どうしても引けない場合もあるでしょう。
会社員として自らの意見を主張する方法は一つではありません。専門家など第三者の意見も確認しながら、目的に合った最適な方法を選んで欲しいと思います。