就職面接での説明と実態が「全然違う」違法性はない?

新卒の人にとってはそろそろ入社の時期、また転職の増えるシーズンでもあります。新しい仕事環境に不安を抱きつつも期待を寄せている方も多いのではないでしょうか。

そんな中、ネットのQ&Aサイトには、入社前・転職前の会社説明と入社したあとの実態とがあまりにかけ離れているために早期の離職を考えている人の相談が寄せられています。

夢を抱かせるような事前説明と実態にかい離がある場合、違法性は認められないのでしょうか?検証してみたいと思います。

会社かい離

ある会社に入社・転職する場合には、(1)求人票・求人広告への応募、(2)会社との面接、会社による説明(3)会社による内定通知(採用通知)というプロセスを経るのが一般的です。

この場合、(1)の求人票・求人広告への応募が労働契約締結に向けた申込にあたり、(3)の内定通知(採用通知)が原則として申込に対する承諾にあたります。すなわち、(3)の内定通知(採用通知)によって労働契約が成立したことになります。

■労働契約は口頭での約束でも成立

そして、労働契約は、口頭での約束でも成立しますので、就職面接で説明を受けた内容が労働契約の内容となり、入社後・転職後の労働条件が異なる場合には法的には事前に受けた説明(労働条件)に是正することを請求できます。

しかし、口頭での説明だけで、労働条件通知書や労働契約書等の労働契約の内容を記載した書面がない場合には、労働条件の説明については「言った」、「言わない」の争いとなり、裁判等の法的手続の場では証明不十分と判断されてしまいます。

■会社には労働条件を明示する義務がある

このような紛争を未然に防ぐ目的で、労働基準法15条1項は、会社は「労働契約締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定め、そのうち、労働契約の期間、就業場所、業務内容、始業終業の時刻、休日休暇、賃金、退職に関する事由等については、会社は書面を労働者に交付する形で明示する必要があります(労働基準法施行規則5条)(なお、この点については、パートタイム労働者や派遣労働者について、それぞれパートタイム労働法や労働者派遣法に個別の定めがあります)。

そして、会社が労働契約締結時の上記明示を怠った場合には、労働条件明示義務違反として30万円以下の罰金に処せられますが(労働基準法120条1号、パートタイム労働法47条、労働者派遣法61条)、残念ながら、上記のように書面による明示を行わなかったり、面接時の説明と実態が異なっている会社が多数見受けられるのが実態です。

このような場合、労働者はどのようにして対抗できるのでしょうか?

■面接時の説明と違えば即時解除できる

まずは、面接時の説明と実態が異なっている場合には、労働者は即時に労働契約を解除することができます(労働基準法15条2項)。本来ならば、民法627条により、労働契約を解除する場合には最低でも2週間の予告期間を置かなければならないのですが、上記の場合には「即時」解約できるわけですね。

ただし、会社を即時に辞めることができるとしても、その選択肢を採ることは現実的とはいえないのではないでしょうか。会社を辞めても直ちに他の会社に転職できるという保証がないからです。

■会社に損害賠償請求は?

では、会社に対して損害賠償請求することは可能でしょうか?この点については、会社は、労働者に対して労働契約の内容の理解促進義務を負っており(労働契約法4条1項)、かかる説明を怠ったことが信義則上の義務(労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、義務を履行しなければならないという義務)(労働契約法3条4項)に違反すると主張する余地があります。

実際に、求人広告、面接、社内説明会において、中途採用者に対し、新卒同年次定期採用者の平均的給与と同等の待遇を受けることができるものと信じかねない説明をし、それを信じて入社した者に精神的損害を与えたとして、会社による説明が労働基準法15条1項に違反し、信義誠実の原則に反するもので不法行為(民法709条)を構成するとして、慰謝料100万円の支払いを命じた裁判例(東京高等裁判所平成12年4月19日判決)があります。

しかし、面接時に口頭での説明しかなされなかった場合にはそもそも説明を怠ったかどうか、説明が適切でなかったかどうかを証明することが難しく、裁判の場では損害賠償請求は容易には認められないと思います。

■現実的には書面に頼るべき

そうすると、現実的な解決案としては、後々トラブルにならないように労働契約締結時に労働条件を記載した書面を必ず交付してもらうようにするか、そのような書面を交付しない会社には入社しないのが無難ということになるでしょう。

なお、余談ですが、求人票や求人広告の内容と入社後・転職後の実態が異なる場合はどうでしょうか?

■求人票や求人広告と実態が異なる場合は?

まず、求人票・求人広告の記載は法的には「労働者に労働契約の申込を誘引させるもの」に過ぎず、会社は同記載内容に縛られません。

求人票・求人広告に応募してきた労働者に対し、会社が面接の段階で求人票・求人広告と異なる労働条件をしっかりと説明し、労働者が納得していた場合には同説明内容で労働契約が成立します。すなわち、この場合には、労働者が入社後に「実態が求人票・求人広告と異なる」といって争っても、その訴えは認められません。

他方で、会社が面接の段階で労働条件について求人票・求人広告通りと説明していた場合はもとより、労働条件について何ら説明していない場合には、求人票・求人広告通りの内容で労働契約が成立すると解するのが一般的です。

川浪 芳聖 かわなみよしのり

琥珀法律事務所

東京都渋谷区恵比寿1-22-20 恵比寿幸和ビル8階

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