行政処分が下されたスマホの「機種代実質0円」 …でも何が問題なの?

 

Photo by 梅澤康二 (画像はイメージです)

■消費者契約に抵触する可能性もあるが、判例では無罪!?

さらに梅澤弁護士に問題点の詳細をお訊きしましょう。

「まず、①(中途解約を禁止すること)については、業務委託契約は民法上は中途解約が自由とされており(民法651状1項)、事業者と消費者の間の契約(消費者契約)において当該自由を制限することは、『消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって…消費者の利益を一方的に害するもの』として消費者契約法10条に抵触しないかが問題となり得ます(なお、判例は結論として消費者契約法10条違反とはならないと判断しています)。

また、②(①に違反した場合の解約手数料を徴収すること)について、中途解約の場合に解約手数料を徴収することは、中途解約禁止に違反したことに対するペナルティーであるため、この解約手数料は事業者が被る損害賠償額について予め合意したものと評価できます。

そうすると、当該解約手数料の金額が過剰に高額である場合、『消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が…当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの』として消費者契約法9条1号に抵触しないかが問題となり得ます(なお、判例は結論として消費者契約法9条1号違反とはならないと判断しています)。

また、②について、中途解約に解約手数料を要する場合、ユーザーは一つのキャリアに事実上長期間拘束される可能性が高まります。そうすると、当該行為は事業者によるユーザーの囲い込みであり新規事業者の参入を困難にする行為として、排除方私的独占行為(独禁法3条前段)又は競争相手の取引妨害(独禁法6条後段・公取告示第14項)に該当する可能性があります(こちらは抵触するかどうかは最終的に公正取引委員会が判断することになります)。」(梅澤弁護士)

判例ではかろうじて逃れているようですが、“中途解約に解約手数料を要する場合、ユーザーは一つのキャリアに事実上長期間拘束される可能性が高まります”がまさに問題です。

2年ごとにMNP(モバイル・ナンバー・ポータビリティ)でキャリアを移ることで人気携帯を安く入手するユーザーも多いようですが、最近ではさらに光回線に電気でも囲い込もうとしています。

 

■そもそも行政指導と行政処分の違いって?

冒頭で各キャリアは行政処分が入ったと記載しましたが、行政指導とは違い、さすがに今回の行政処分はこたえたようです。行政指導と行政処分の違いはどこに?

「行政処分とは、行政による一方的な行為によって相手に公法上の権利義務を課す処分です(例えば、許認可の取消しは相手の公法上の権利を奪う行為ですので、行政処分です)。行政処分が行われた場合、キャリア側は処分に基づく公法上の権利義務を負いますので、何らかの措置を講ずる法的義務が生じることになります。

行政指導との違いはまさにこの法的義務(公法上の義務)が生じるかどうかであり、行政処分は行政指導と異なり一定の法的強制力を伴う措置といえます」(梅澤弁護士)

なるほど、それで大手3キャリアは急いで改善策を打ち出してきたというわけですね。

そのうち、ほとぼりが冷めた頃に、また驚くような手法でキャンペーンが始まると思いますが…。

 

*取材協力弁護士:梅澤康二(弁護士法人プラム綜合法律事務所。東京都出身。2008年に弁護士登録。労働事件、労使トラブル、組合対応、規定作成・整備などのほか各種セミナー、労務問題のリスク分析と検討など労務全般に対応。紛争等の対応では、訴訟・労働審判・民事調停などの法的手続きおよびクレーム、協議、交渉などの非法的手続きも手がける。M&A取引、各種契約書の作成・レビュー、企業法務全般の相談など幅広く活躍。)

*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。)

【画像】イメージです

*Ushico / PIXTA(ピクスタ)

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