英語力不足で給与カット… こんなことアリなの?

給与明細 電卓

グローバル化が進み、日本でも社内公用語を英語にする企業が増えてきているようです。

「英語が苦手だから困る…」などという声も聞こえてきそうですが、社内公用語を英語にするにあたり、社員にTOEICの目標スコアを設定し、その目標に到達しなければ給与をカットする、といったことをしている企業もあるようです。

TOEICのスコアが足りないことを理由に給与をカットすること自体違法じゃないのか、と思う方もいるかもしれませんが、そもそも労働条件や就業規則はどのように決められているのでしょうか。

 

■労働条件の定め方

いかなる労務を提供するのか、またその対価としていくらの賃金が支払われるのかなど、労働条件は、基本的には経営主体と労働者との間の合意(労働契約)によって定められるものです。

しかしながら、多数の労働者を使用する近代企業においては、経営上の要請により、統一的かつ画一的に定めておくことが望ましく、そこで登場したのが就業規則です。合理的な労働条件を定めている限り、労働契約の内容は、その就業規則によるものとされています(労働契約法7条)。

 

■労働条件の不利益変更の可否

個別に合意したものであれ、就業規則に定められたものであれ、労働契約の内容となるものである以上、労働条件を一方的に労働者に不利益に変更することはできません。

労働契約法9条にも、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容を変更することはできない。」と定められています。

もちろん、就業規則で賃金規定が定められ、人事考課によって賃金が下がることが明記されているのであれば、それが労働契約の内容になっているわけですから、「一方的な不利益変更」ということにはなりません。

 

■就業規則の不利益変更

すでに述べたように、就業規則の内容そのものを一方的に労働者に不利益に変更することはできないのが原則ですが、「変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」には、変更後の就業規則も効力を有し、労働条件もそれによることになります(労働契約法10条)。

 

■英語ができないと賃金をカットすることの適法性

社会のグローバル化が進む中で、社内の公用語を英語にすると宣言し、英語力の不足を理由として降格や減給の対象とする企業も出てきているようです。

この点については、労働条件の不利益変更になりますので、労働者との個別の合意がない以上、就業規則に定められている場合でなければ違法です。

もちろん、就業規則に定められていたとしても、個々の労働者ごとに、その就業規則をそのまま当てはめて降格や減給の対象とすることが相当か否かはやはり検証が必要となります。

また、就業規則を変更した上で降格や減給の対象とすることについては、すでに述べたとおり就業規則を不利益に変更できる要件に該当するか否か、該当するとしても、当該労働者に対しそれをそのまま適用することが相当か否かは、別途検証が必要となります。

例えば、TOEICの目標スコアを設け、目標スコアにその社員の点数が届かない場合は給与を10%カットする措置については、従業員が取り扱う業務における英語の必要性如何によっては、一律にカットする措置は違法となる可能性もあるでしょう。

但し、目標スコアを設けて労働者に英語の勉強を強制する行為は、直ちに違法になるとは考えられません。適切な期間を設けた上で、会社がその費用を負担し、その間の賃金(残業代を含む。)もきちんと支払われるというのであれば、教育訓練の範囲内のものといえるからです。

 

*著者:弁護士 田沢 剛(新横浜アーバン・クリエイト法律事務所。8年間の裁判官勤務を経たのち、弁護士へ転身。「司法のチカラを皆様のチカラに」をモットーに、身近に感じてもらえる事務所を目指している。)

*toshi / PIXTA(ピクスタ)

田沢 剛 たざわたけし 弁護士

新横浜アーバン・クリエイト法律事務所

横浜市港北区新横浜3-19-11-803号(加瀬ビル88)

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