国が無料通話アプリの内容を監視することは許されるのか?

●憲法で通信の秘密を保障

憲法21条1項後段は、「通信の秘密は、これを侵してはならない。」として、通信の秘密を保障しております。

これは、特定の人間のコミュニケーションを保護するものですので、外部的な表現活動を保護する「表現の自由」とは違い、プライバシー権の一内容にもなるものです。

ですが、特定の人間で相互に意思や情報の伝達をしあうことは、外部的な表現活動と同じく個人の意思形成にかかわるもので、意見表明や思想表現の前提となること、公権力は、支配体制に批判的な人物の政治的表現その他の活動を監視するために通信の内容を覗こうとする傾向があることなどから、「表現の自由」を定めた憲法21条の中に規定されているわけです。

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●通信の秘密の内容は

通信の秘密の保障は、公権力が、信書、電信・電話、その他の方法による通信について、その内容及び通信にかかわる一切の事項を見聞したり、知り得たことを他に洩らすことを禁止するということを内容としています。

 

●通信の秘密の制約

しかしながら、憲法13条が「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定めているように、人権といえども無制限に認められるものではなく、「公共の福祉に反しない限り」において保障されるものですから、通信の秘密も、これを制限すべき正当な目的があり、必要最小限度の制限といえる場合には、違憲ないし違法ではないということになります。

わが国では、平成11年8月に犯罪捜査のための通信傍受法が成立するまでは、通信傍受を認める法律は存在しませんでした。

最高裁が平成11年12月に下した決定においても「重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足る十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存在する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許される」とされるなど、よほどのことがない限り通信傍受は許容されません。

 

●対象拡大は違憲の疑い

通信傍受法では薬物、組織的殺人、密航、銃器の4つの犯罪に対象が限定されていますが、新たに窃盗、詐欺、傷害などの日常的犯罪へも対象犯罪が大幅に拡大しようとする法改正の動きが出てきております。

振り込め詐欺の被害が後を絶たないという現実を踏まえても、通信の秘密との関係で歯止めが利かなくなるといった懸念が生じているため、慎重な議論が求められるところです。

 

*著者:弁護士 田沢 剛(新横浜アーバン・クリエイト法律事務所。8年間の裁判官勤務を経たのち、弁護士へ転身。「司法のチカラを皆様のチカラに」をモットーに、身近に感じてもらえる事務所を目指している。)

田沢 剛 たざわたけし

新横浜アーバン・クリエイト法律事務所

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