「記憶にございません」では偽証罪には問えないの?

*画像はイメージです:https://pixta.jp/

このところ国会で森友学園問題の証人喚問や、都議会では百条委員会での官僚、石原元都知事の証言で連発された「記憶にございません」。

これほど質問者を、また国民がイラつかせるセリフはありません。思わずTVに向かって「うそつけーー! 覚えてないわけ無いだろう、覚えていないということ自体が嘘だ! 偽証罪だ!」とツッコんだ方も多いはず。

これは今に始まったことではありません。日本でこのセリフが有名になったのは田中角栄元首相に米ロッキード社が自社の航空機を導入してくれるよう賄賂を送った「ロッキード事件」。1976年、予算委員会の証人喚問に召喚された国際興業の小佐野賢治氏が連発、その年の流行語大賞になりました。

事件は大物フィクサーや大手商社が絡み、さらには戦後から続くアメリカ側の意図も見え隠れする魑魅魍魎の世界。2017年は久しぶりに注目の事件で「記憶にございません」が連発されましたが、やはり魑魅魍魎としかいいようがない登場人物・組織が絡んでいます。

 

■絶対おぼえているはずなのに、記憶にないなんて嘘じゃないの?

そう昔のことでもあるまいし、そう簡単に忘れてしまうようなことではないはずなのに、「記憶にございません」という発言自体が偽証罪に問えないのでしょうか?

星野法律事務所の星野宏明弁護士に伺ってみると……。

「偽証罪は、法律により宣誓した証人が“虚偽の陳述”をしたときに罰せられる罪です(刑法169条)。ここでいう“虚偽の陳述”とは、証人の主観的記憶を基準として自らの体験と異なる内容を陳述することを意味します。

要するに、証人が主観的に記憶している事実と異なる事実を証言することが偽証罪とされます」(星野弁護士)

主観的記憶、つまり証人本人の記憶を基準とするというわけですね。それなら、本当は覚えているはずなのに覚えていないというのは嘘になるのでは?

「『記憶にございません』という供述は、自己の記憶に反する虚偽の事実を証言するものではないため、虚偽の陳述という偽証罪の要件をみたしません。

本当は記憶があるのに、“記憶がない”と嘘をつくこと自体は偽証罪によって罰せられていないためです。

偽証罪が成立するにはあくまで、“記憶に反して、虚偽の事実の陳述をする”必要があります。

記憶にないと嘘をつくこと自体は、直接偽証罪で処罰対象とされていないのです」(星野弁護士)

そ、そんな……! 法律の抜け穴を突いたよくできたセリフだなんて!!

 

■それならウソ発見器で白黒ハッキリつけてはどうでしょう!?

では、証人喚問中にウソ発見器や精神科医による分析で白黒をハッキリさせることをしないのは何故なのでしょう? そのほうがスッキリしそうですが。

「そもそも記憶にないと嘘をつくこと自体は、直接偽証罪で処罰対象とされません。

また、裁判や証人喚問、刑事の取り調べで、本人の意思に反してうそ発見器を使用することは、違法な捜査となるおそれがあります。

他方、偽証罪で処罰できる場合も、主観的に記憶した事項として供述した事実が虚偽であったことが立証されればいいので、精神鑑定やうそ発見器は不要です」(星野弁護士)

ちなみに、後から思い出したり、記者会見や手記、取材などで「思い出しました」と話し出しても偽証罪の対象にはならないそうです。

 

■証人喚問でなく、一般の弁護ではどうなのでしょうか?

星野弁護士に、一般の弁護でこの「記憶にございません」に悩まされるケースがあるかも訊いてみました。

「悩まされたことはありません。

そもそも『記憶にありません』では偽証罪に問われませんが、虚偽陳述を偽証罪に問わなくても、証言内容が虚偽であることが他の証拠で立証できれば、裁判に影響はないからです。

裁判の証人尋問での不自然な沈黙や『記憶にありません』との供述はそれ自体証人の証言の証明力を疑わせ、裁判所がそれを考慮して判決を出すので、わざわざ偽証罪の問題を持ち出すことの実益は基本的にありません。

むしろ裁判の証人尋問では、相手方の主張内容を固める虚偽の証言をされるくらいなら、『記憶にない』『はっきり覚えていない』と証言してもらった方がよい場合もあります」(星野弁護士)

 

なるほど、証人喚問では次々と有罪を示すような証拠や行動記録、証人が出てくるわけではありません。そして裁判長がその場で有罪を示す裁判とも異なります。法廷とはまた別の場であるということですね。

悪質な場合、事件性が高ければ、「記憶にありません」で弁明できない場に舞台が移ることでしょう。

 

*取材対応弁護士:星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)

*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。)

【画像】イメージです

*freehandz / PIXTA(ピクスタ)

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