マスコミの行き過ぎた取材に違法性はないのかを検証してみた

和歌山毒物カレー事件が発生した当時、連日マスコミは後に死刑判決となった林眞須美について報道を続けました。

マスコミは疑惑の段階から林眞須美をテレビで晒し続け、自宅の周りに24時間張り込みを行うなど、マナーが悪いだけでは片付けられないような行為も多々行っていたようです。

その時のマスコミの様々な行動は問題だったのでは、とするコラムがネット上で話題となっており、そこに掲載されたマスコミの行為が法的に問題はないのか、検証してみる事にしました。

ニュース番組

 ■何とか家に上がろうとドアを叩き、受け取ってくれるまで帰らない

住居侵入・不退去罪

住居侵入・不退去罪の対象である住居には建物内部だけではなく戸建てであれば門柱や塀の内側の庭部分も含まれます(邸宅に含むとする考えもありますが邸宅侵入罪が成立する点で結論は同じです)。

取材のためであっても相手がたとえ殺人の容疑者であっても他人の住居侵入することは違法です。少なくともインターホン越しに名乗って取材を断られた後長時間敷地内に居座り続けることは住居不退去罪となります。

他人の意思に反してその住居に入るには司法官憲の発する「令状」が必要です。

 

■あるスポーツ紙は「怪しい」とう噂の段階で夫・健治の顔写真を堂々と掲載した

名誉棄損不法行為

他人の社会的評価を公然と貶める行為ですので名誉棄損罪が成立する可能性があります。

ただし公訴提起前の犯罪行為に関する報道は公共の利害に関する事実とみなされますので専ら公益を図る目的であってかつ真実である場合には例外的に名誉棄損となりません。

相当の取材と根拠に基づき真実であると誤信した場合も違法性が阻却されます。

 

■ある写真週刊誌は「冷血!和歌山毒入りカレー殺人犯と保険金殺傷疑惑」と称した特集で眞須美と間違って娘の写真を載せてしまう

名誉棄損。不法行為

こちらも上記と同じく(娘に対する)名誉棄損となるでしょう。

ただし軽率に誤って娘の写真を載せた点で違法性阻却の要件は満たさない可能性が高いでしょう。

 

■家の前には24時間体制で数十人の報道陣が待機

プライバシー侵害

公道上に待機し交通の妨害をしない限り基本的には刑事上の犯罪とまではならないでしょう。

ただしプライバシー侵害として民事上の損害賠償責任を負う場合があります。

 

■夜中の12 時過ぎでもライトを付ける

取材対象が業務を行っていれば威力業務妨害罪が成立する余地もありますが、住居である場合には原則として刑事上の犯罪にはならないでしょう。

ただ、取材相手の睡眠を妨害するほどのもので実際に相手が不眠により疾病を生じた場合には傷害罪が成立する可能性もあります。

民事上も別途平穏な生活を受忍限度を超えて害するものとして不法行為となる可能性があります。

 

■タバコの灰からジュースの空き缶、弁当の空箱が散らかっていた

軽犯罪法違反

軽犯罪法1条27号の「公共の利益に反してみだりにごみを棄てた者」に該当する可能性があります。

 

■娘が窓を2階の窓を開ければ目の前にはカメラマンが家の中を覗くために設置した脚立がある。

軽犯罪法違反・プライバシー侵害

軽犯罪法1条23号ののぞき見の罪が成立する可能性があります。

 

■郵便ポストの手紙が何回も引き抜かれ、こっそりと封を開けられて中身を見られた

刑法上信書開封罪となる犯罪行為です。

 

以上のように、殆どの行為が犯罪になるおそれがあることが分かります。

マスコミの取材に対して風当たりが強い現在では、ここまでは行われないのかもしれませんが、まだまだ様々な問題があるように思います。

リクスを承知でスクープを撮るというのはマスコミの宿命かもしれませんが、法を犯した(可能性のある)人を撮るために自ら法を犯すというのはおかしな話ではないでしょうか。

 

*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)

星野宏明
星野 宏明 ほしのひろあき

星野・長塚・木川法律事務所

東京都港区西新橋1‐21‐8 弁護士ビル303

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