酷すぎる「会社を辞めさせてくれない」実例6つ…弁護士はどう見る?

会社やバイト先をやめると告げた時、なにかと理由を付けて「辞めさせてくれない」事例は多数あります。

中には脅しに近いものあり、辞めたいのに「辞めさせてくれない」「辞められない」という環境の人も少なくありません。

今回は「NPO法人労働相談センター」に寄せられた、辞めさせてくれない実例の中から6つの、ケースについて解説してみます。

ブランコ

1、正社員。子供の体調不良の為にすぐに退職したいと会社に伝えたが、「社内の決まりで退職手続きは一ヶ月前となっているので、すぐには辞められない」と言われた。

正社員と言うことですと、通常は定年までの期限の定めのない雇用契約になっています。この場合には、合理的な理由がなくても、一方的な解約、つまり辞職ができます。但し、2週間前の予告が必要です。

この会社の退職手続は、「1ヶ月前」となっていますが、判例の中には、2週間よりも予告期間を長く定めた部分を無効としたものがありますので、その判例を使って、2週間後に辞めることができることになります。

ただし、この点については見解が分かれているところでもありますので、一概に違法とまではいえず、グレーといったところでしょう。

 

2、美容師で雇われ店長。過労と過度のプレッシャーで体重が16キロも落ちた。救急車で運ばれるなど健康も害している。オーナーに退職を申し入れたら「辞めるなら、今までの店の改装代など全額払ってから辞めろ」と言われ、辞めさせてくれない。

雇われ店長の雇用形態にもよりますが、おそらく何年契約といった感じで、期限の定めがあるものと思われます。この場合には、「やむを得ない事由」があれば、直ちに辞職できます。過労と過度のプレッシャーで救急車で運ばれるなど健康を害していることからすれば、「やむを得ない事由」ありとするのは容易です。

今までの店の改装代などは、辞職によって発生した損害とは言えませんので、支払う必要はありません。辞めさせないようにするための労働強制の手段としてそのように言っているだけで、むしろそのようなことを言うオーナーの方が問題であり、違法な言動といえるでしょう。

 

3、某有名チェーンお弁当屋でアルバイト。パワハラなど苦痛で堪らず「辞める」と伝えると「一ヶ月は辞められない」と言われた。辛くて堪らない。

アルバイトということですので、期限の定めのある契約だと思われます。2の場合と同じく、「やむを得ない事由」があれば辞められます。パワハラなどの苦痛は、立派な「やむを得ない事由」になります。この場合には、直ちに辞められますので、「一ヶ月は辞められない」などという言動は、違法と言わざるを得ません。

 

4、会社からの借金があり、毎月の返済が大きく生活ができないので、もっと給料のいいところを探して勤めようと退職を決めたが「だったら借金を全額払ってもらう」と辞めさせてくれない。軽い気持ちで借金した私にも責任はあるのだが、本当に困っている。

辞職の問題と借金の問題は、本来別次元のことです。辞職の自由は、借金によって妨げられることはありませんので、雇用契約に期限の定めがあるかどうかの区別により、定めがあれば、借金の返済のための転職は「やむを得ない事由」に当たりますので、直ちに辞められますし、定めがなければ、2週間前の予告をして辞表を提出すれば辞められます。

会社から「退職するのなら借金を全額払え」との言動は、正に辞職の自由を制約するものであり、違法です。

 

5、正社員。2ヶ月前に退職届を出したが、全く無視されなんら反応がない。本社にメールをだしたが返事もない。上司は「本社が・・・」としか言ってくれない。このまま辞めたら訴えられたりするのでしょうか。

正社員ということであれば、期限の定めのない契約になっていますでしょうから、退職届提出後、2週間経過すれば、適法に辞職できます。問題は、社長宛に、或いは、人事の決裁権のある上司宛に、退職届を出したか否かです。この点を確認して、出したのであればそのまま辞めても問題はありませんし、そうでなければもう一度社長宛に内容証明郵便で退職届を郵送し、2週間を待って辞職すればよいでしょう。

いずれにしろ、退職届を出したにもかかわらず、それに対して何ら反応をしない上司、あるいは、会社は、違法な行為をしていると言っても良いでしょう。

 

6、委託業務業者に雇われ、派遣先はヤマト運輸でドライバー。朝8時から夜8時。休憩時間はほとんどない過酷な労働環境。うつ病になり2週間病気休業したら「業務放棄、無断欠勤」だとされ委託料の支払いを断られた上、すぐに職場復帰しろと命じてきた。このままでは事故を起こし殺されてしまう。

この方は、過酷な労働環境によりうつ病になったとのことですので、2週間の病気休業をしたのであれば、全額会社から給料をもらえるはずです。にもかかわらず、委託料の支払いを断った上、職場復帰を命じるなど言語道断で違法です。2週間分のお宅料の支払い請求と共に、辞表を出しましょう(おそらく期限の定めのある契約でしょうから、「やむを得ない事由」ありとして直ちに辞職できます)。

 

7、居酒屋の雇われ店長。勤続7年。他社からいい条件で転職を勧められたので応じることにした。社長に打ち明けたら「辞めたらケジメとるぞ」と脅された。

雇われ店長ですので、期限の定めのある契約をされているでしょう。この店長は、勤続7年。契約期間の初日から1年以上すぎていますので、「やむを得ない事由」がなくても、いつでも退職できます。従って、「辞めたらケジメとるぞ」との脅しは、まさに違法行為です。さっさと辞表を出して辞めてしまいましょう。

 

*著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)

労働相談センター・スタッフ日記より許可を得て掲載させていただきました。

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小野 智彦 おのともひこ

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