「脱法」のハーブが原因で事故を起こしても罪は重くなる?

先月6月24日午後8時頃、池袋西口の繁華街を自動車が暴走し、男女7人がはねられ、女性一人の尊い命が犠牲になった事件は、大きく報道され、記憶に新しいと思います。

この事件で自動車を運転していた被疑者は「脱法ハーブ」を摂取した後に自動車を運転し、このような惨劇を引き起こしました。

池袋

「脱法ハーブ」は報道等で耳にしている方も多いと思いますが、種々の方法で人体に取り入れることで、覚せい剤等と同様に正常な人間の知覚・動作を失わせるような効能を有しながら、法規制下にないものの俗称とされています。

法規制にある大麻の代替品として合法ハーブなどとして流通している実態があり、厳しい取締り規制が始まっています。

走行する自動車は、時に走る凶器となります。「飲んだら乗るな」といった標語も一般的に流通しているように、飲酒運転に対する厳しい規制がなされて久しいですが、未だに飲酒運転による事故は引き起こされています。

その最中での近年の「脱法ハーブ」による自動車事故の多発は由々しき事態です。

飲酒や薬物の効能によって、正常な運転が困難な状況下で自動車を走行させた場合、現行法では「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が適用されます。

これは、刑法208条の2「危険運転致死傷罪」を移行させた新法ですが、処罰される自動車運転行為を広げています。

つまり、悪質かつ危険な自動車運転行為を厳罰化したものです。

 

■危険運転致死傷罪になるのか

先程「脱法ハーブ」は、正常な人間の知覚作用等を失わせる効能を有しながら、法規制下にないものの俗称と紹介しましたが、法規制下にない「脱法ハーブ」の影響によって人を死傷させる行為と、法規制下にある覚せい剤等の影響や飲酒運転によって人を死傷させる行為とで、処罰の重さ、つまりは量刑に違いは出てくるのでしょうか。

まず、刑法208条の2「危険運転致死傷罪」では「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ」、人を死傷させた場合は処罰すると規定されていますが、ここで「薬物」とは、覚せい剤等法規制下にある違法薬物に限られず、運転を困難にする効能を有するものであれば、「薬物」に該当するとされます。

従いまして、法規制下にない「脱法ハーブ」であっても、その効能・作用により自動車運転を困難にするものであれば、同条の「薬物」に該当しますし、新法も当然予定しているものと考えられます。

 

■罪の重さには影響する?

では、違法薬物と「脱法ハーブ」の影響による自動車の人身事故が同じ法条文で処罰されるとして、その罪の重さに軽重はあるのでしょうか。

裁判官の下す量刑の問題は、起訴された事件や被告人の多種多様な事実、状況、状態が斟酌されます。

従いまして、同じような事件でも、一様に判断されるものでは全くありません。

ここでは、『違法薬物と「脱法ハーブ」』との差異について考えますが、私はこれ限りの事実によって量刑に大きな差異が生じるものとは考えません。

違法薬物の人体に与える影響は明らかであり、社会的にもその影響は一般的に知られております。一方で「脱法ハーブ」は近年に問題視されたもので、違法薬物よりも簡単に手にすることができ、その効能について一般的に広く知られているものとは言えないかもしれません。

しかしながら、その効能は、殊に自動車運転において、上記池袋の事件に顕現されているように、人間の正常な知覚や行動を失わせ、他者の生命身体に危険を及ぼす類ものであることが顕著であり、「脱法ハーブ」は医療薬品とは全く異なり、単に個人の嗜好によって使用されるに過ぎないものであって、違法薬物と同様、多くが快楽や特異体験への興味といったことが使用の端緒と考えられます。

つまりは、その使用者の多くは、人体に正常な知覚や行動を失わせることを予見又は知って、自動車を運転するのであり、正常な知覚や行動を失わせることを理解している以上、自身の自動車の運転によって、人の生命身体に危険を及ぼすかもしれない認識がないとはいえないと考えます。

 

■惨劇をなくすために

通常、正常の状態においても、一般に自動車を運転する以上は、交通規制を守り、事故のないように意識して運転するものです。

それでも未だに交通事故はなくなりません。

自動車運転に対する安全意識は自動車を運転する者に当然に要求された意識です。事実、これを簡単に奪ってしまう「脱法ハーブ」は、それが法規制下にあろうとなかろうと、自動車を運転する以上、使用してはならないのであり、同様の効能を有する違法薬物等の使用に比べて、強く非難されるべきではないということには、全くならないと思いますし、量刑において減軽されるべきと考えることはできないと思います。

交通事故事犯、薬物事犯は現代社会で根強く存在しています。

その社会で、「脱法ハーブ」による交通人身事故のような複合した事件が生ずるのは、必然的なのかもしれません。現代社会は、良きにしろ悪しきにしろ、個人に多くの物質、環境、自由や選択を与え、多種多様な価値観を共存させること許します。今後も現代社会はその発展に伴い、さらに多くを個人に与え、個人の多様性は広がっていくでしょう。しかしながら、そうであるからこそ、個人は厳に個々の社会的節度を守っていかなくてはならないのではないでしょうか。

池袋の事件のような惨劇の根絶を目指し、安全意識を強く持って自律し、よりよい社会を築いていくという一人一人の意識と判断が、現代社会につとに求められているのだと思います。

*著者:弁護士 桐生貴央(広尾総合法律事務所。「人のために 正しく 仲良く 元気良く」「凍てついた心を溶かす春の太陽」宜しくお願いします。)

桐生 貴央 きりゅうたかお

広尾総合法律事務所

東京都港区南麻布5丁目15番25号 広尾六幸館301(主事務所)

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