各国で勤務時間外のメール禁止に 日本で導入する際の懸念点は?

メール

現在、世界的風潮として、業務時間外の業務関係の電話やメール等を禁止する流れとなっています。

例えば、フランスでは、企業が業務時間外に電話やメール等により労働者に連絡することを禁ずる条項が労働協約に追加されています。

また、ドイツでも、業務時間外に労働者にメールを送信することを停止する企業や、緊急時以外のメールの送信を避けるよう社内に通達している企業があります。

さらに、ブラジルでは、業務時間外に仕事のメールに返信する時間についても時間外手当の対象とする法律が承認されています。

このような世界的風潮を受け、日本でも業務時間外の業務関係の電話やメール等を禁止する内容の労働協約(以下「本件協約」といいます。)が締結された場合、どのような法律上の問題が生じるのでしょうか。

また、仮に労働者が、業務時間外に業務関係の電話やメール等に対応した場合、労働者は使用者に対し、賃金等の請求ができるのでしょうか。

以下、解説したいと思います。

 

■労働協約とは何か、その適用範囲

労働協約とは、労働組合と使用者又はその団体との間における労働条件等に関する書面による協定をいいます。

このような労働協約が締結されると、労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効とされ、無効となった部分はその基準の定めるところによることになります(労働組合法16条)。

労働協約の効力は、協約を締結した組合の組合員にのみ及ぶのが原則です。

もっとも、(1)事業場単位で、(2)常時使用される同種の労働者の4分の3以上が、(3)1つの労働協約の適用を受けるに至った場合は、(4)その事業場における他の同種の労働者に対しても、その協約が適用されます(労働組合法17条)。

 

■本件協約の問題点

前述のように、労働協約とは労働組合と使用者又はその団体との間の意思の合致により締結されるものなので、本件協定を自ら締結した使用者又はその団体の営業の自由(憲法22条1項参照)等の権利利益の侵害の問題は生じません。

また、労働者側からみても、本件協定は業務時間外に業務関係の電話やメール等を禁止するという労働者に有利な内容のものなので、通常は労働者の権利利益の侵害の問題も生じないでしょう。

もっとも、労働者によっては、業務時間外に仕事をしたいと考える人もいると考えられますので、業務時間外は業務関係の電話やメール等を一切禁止するとすると、その者の働く利益を侵害する可能性があります。したがって、本件協定を締結するのであれば、労働者の働く利益にも配慮した内容にすべきでしょう。

 

■業務時間外の電話やメール等に対応した場合

仮に、業務時間外に上司の電話やメール等に対応した場合、労働者はその時間分の賃金や時間外割増賃金等をもらえる可能性があります。

判例では、労働時間か否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるとされています。そして、労働時間にあたるのであれば、使用者はその時間分の賃金を支払わないと労働基準法違反となります。さらに、法律や就業規則により支払う必要がある場合は、時間外割増賃金等も発生します。

したがって、業務時間外の上司からの電話やメール等が、使用者の指揮命令下に置かれたと評価できる場合には、使用者は労働者に対し賃金を支払わなければならず、場合によっては時間外割増賃金等を支払う必要があるでしょう。

*著者:弁護士 鈴木翔太(弁護士法人 鈴木総合法律事務所)

鈴木 翔太 すずきしょうた

弁護士法人 鈴木総合法律事務所

東京都渋谷区恵比寿1-8-6 共同ビル4階・7階

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