カネボウが「白斑被害」で求めたPL法の免責とは何?

カネボウ化粧品の美白化粧品を使って肌に白斑が残ったとして女性が、製造物責任法(以下PL法)などに基づき同社に約4,700万円の損害賠償を求めた訴訟が5日ありました。

同社は昨年の第1回口頭弁論で、化粧品に配合された美白成分が白斑の原因であることは認めていたのですが、今回は「化粧品の開発時に白斑被害は予想できず、賠償責任は負わない」と反論してきました。

予想できなければ責任はないの?と疑問になりますが、PL法には、欠陥製品を販売しても当時の専門知識では欠陥を認識できなかったならば賠償責任は生じないとする免責条項があります。同社はこれの適用を求めてきたわけです。

これが簡単に認められるならば、問題を起こしても「製造時には予見できなかったので無罪です」と言いたい放題の気もします。今回は、PL法の基礎と免責事項の認められる範囲について簡単に解説していきたいと思います。

カネボウ白斑

製造物責任(Product Liability)とは、製造物に欠陥があったことについて製造業者が負う責任のことです。

■今こそ知りたいPL法の基礎

PL法は、「製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的」(同法1条)として制定された法律です。

同法は、3条本文で「製造物業者は、その製造、加工、輸入又は前条第3項第2号若しくは第3号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」と製造物責任について規定しています。

ここで「欠陥」とは、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます(同法2条2項)。

■過失の有無を問わず責任を認める

例えば、某メーカーが製造した電子レンジを町の電気屋さんから購入して普通に使用していたところ、絶縁不良で安全性を欠く製品であったために、煙が出たり発火したりして個人が火傷を負ったり、住宅が火事になったりした場合です。

PL法は、こうした場合、過失の有無を問わず安全性を欠く電子レンジを製造したことのみを理由として某メーカーに対し火傷・火事についての責任を認めるわけです。

これは、被害者が製造業者の責任を追及しやすいようにして被害者の保護を図るためです。

■締め付け過ぎないように「免責」を規定

しかし、製造物に欠陥があった以上常に責任を負わなければならないとすると技術革新が停滞し、社会的有用性が大きい合理的な新製品の開発が阻害されてしまいます。

そこでPL法は、「当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかった」(同法4条1号)と製造業者が証明した場合に製造物責任が免責される旨、規定しています。これは、開発危険の抗弁と言われています。

もっとも、「弊社は元々たいした科学・技術を持っていない。だから弊社には欠陥があることを認識しようがなかった」といった証明で免責されるわけではありません。

ここで問題となる「科学又は技術」の水準は、当該製造業者や個別の業界の「科学又は技術」の水準でなく、その時点における「科学又は技術」の最高水準とされています。

製造業者としては、世界の科学・技術の最高水準を意識した上で、安全性を備えた製品を製造する責任があるわけです。

■今回のケースについては

カネボウ化粧品の「白斑被害」についても、「製品を流通に置いた時点」において、世界の科学・技術の最高水準に照らしても被害の発生が予見できなかったのかどうかが問われることになります。

なお、カネボウ化粧品の開発危険の抗弁が認められたとしても、「製品を流通に置いた後」に製品の欠陥が明らかになった場合には、その時点からカネボウ化粧品は当該製品の危険性の公表、指示・警告、販売停止又は回収によって被害を防止すべきであって、これらの事を行わなかったがために被害が発生したときは過失責任を負う可能性があるでしょう。

製造業者には、危険性を把握した時点から被害拡大を防止すべき責任もあるということです。

冨本和男
冨本 和男 とみもとかずお

法律事務所あすか

東京都千代田区霞が関3‐3‐1 尚友会館4階

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